2024年は女性アクション映画の当たり年? 『ロスト・イン・シャドー』で爆走する絶叫地獄

 話は変わるが、2024年はきっと女性主人公アクション映画というジャンルにおいて特別な年になる。『マッドマックス:フュリオサ』をはじめとして『ポライト・ソサエティ』『密輸1970』『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』など各国から女性主人公アクション映画の傑作が現れた豊作の年である一方、映画界初の女性アクションヒーローと目されるチャン・ペイペイが亡くなられた年でもある。この2024年において、インドネシア産女性主人公アクション映画である『ロスト・イン・シャドー』はゴアすぎる描写とハイテンションな作劇によって全く埋もれない輝きを放つ。

 女性主人公アクション映画において「こんな可憐な女性なのに、アクションしちゃいます」という態度が古臭いのは言うまでもない(なにせ1966年に公開されたチャン・ペイペイ主演の映画『大酔侠』ですらそのような態度でないのだから)。実際上記に挙げたタイトルで、そのような態度の作品は一本たりともない。無論そのことをことさら強調するような時代でもないーー例え2022年頃にそのような邦画があったとしても。つまり言いたいのは、こと『ロスト・イン・シャドー』においては「女性主人公なのに、ゴアなアクションしちゃいます」感が一切ないということだ。

 これはそもそもティモ・ジャヤント監督がコンスタントに人体損壊映画を撮ってきたというのも大きい。フラットな姿勢で凄惨なゴアをやっており、例え煮えたぎる油を悪党の顔面にぶっかけたとしてもそれは生存と目的完遂のための必然な行為であり、それで人体が大変なことになったとしても自然本来の在り方を描いているだけなのだ。

 それはクライマックスにて発生する女性同士のタイマンでも変わりはない。血で血を洗う死闘に「やったった」感はなく、両者ともに血で真っ黒に染まる死闘ぶりに震えることとなる。というか『ロスト・イン・シャドー』ラストのタイマンは2024年でも頭ひとつ抜けて壮絶なので、是非Netflixに加入しその目で確かめてほしい。

 ティモ・ジャヤント監督はストーリー面では語るべきところはないという評価もあるが、実のところアクション映画の新しい側面を常に模索しているように思える。例えば『ロスト・イン・シャドー』とトーンを同じくするバイオレンス格闘映画『シャドー・オブ・ナイト』(2018年)では殺し屋×少女ものという定番のジャンルを扱いながら少女と絆を深めるのをそこそこに、あとはひたすらおっさん同士がどつき合う異様な展開を見せた。また、ティモ・ジャヤント監督の前作にあたる『ザ・ビッグ4』(2022年)はファミリー層に向けられた陽気なアクションコメディだが、平然とR18+な人体損壊アクションが炸裂する本当に見たことのないタイプの映画だった。

 『ロスト・イン・シャドー』もティモ・ジャヤント監督のフィルモグラフィに倣い、女性主人公アクション映画として今までにない領域に達している。このティモ・ジャヤント監督の新しさを模索する精神が面白さに直結しているかはともかく、凄いものが観られるのだけは間違いない。

■配信情報
Netflix映画『ロスト・イン・シャドー』
Netflixにて配信中
監督:ティモ・ジャヤント
出演:アウロラ・リベロ、ハナ・マラサン、アディパティ・ドルケンほか

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