『放課後カルテ』松下洸平のぶっきらぼうな態度に隠れた優しさ 児童役の子役たちが名演

 そんなゆきを前にして牧野が思い出したのは、立ち入り禁止の裏山でツツガムシに刺されてしまった児童・拓真(柊吾)の言葉だ。そのせいで体調不良だったにもかかわらず、友人たちを連れて再び裏山に入ったところで倒れてしまった拓真。そんな風に無理をしてでも友人たちを裏山に連れていったのは、秘密基地を見つけたことを信じてほしかったから。結果、倒れてしまったけれど、無事友達に嘘じゃないことをわかってもらえて「信じてもらえないのきつかった」と安堵の涙を流す拓真を見て、子どもの頃、何よりも辛かったのはどんなに些細なことでも親や友達に自分の言葉を信じてもらえないことだったと思い出した。

 ゆきもそうであり、どうせ信じてもらえないと諦めていたが、「最初から疑ってかかるようなことはしない」という牧野の言葉を受けて症状を説明し始める。表情は相変わらず仏頂面だけど、「この人なら信じてみてみよう」と子供に思わせる安心感を出せるのは松下だからこそ成せる技だろう。ゆきが話しやすいようにぬいぐるみで恥ずかしながら会話しようとしたり、頭を悩ませながらツツガムシ病について知らせる保健だよりを作ったり、そのぎこちなくチャーミングな一挙手一投足からも不器用なだけで本当は優しい人であることが伝わってきた。

 その後、ゆきが話した症状からすぐにナルコレプシーであることを特定し、彼女を責めていた他の生徒たちを「周囲の人間が病気を知らないことで知らず知らずのうちに当人を追い詰める」「どれだけ酷いことをしたか自覚しろ」と叱咤する。厳しい言葉だが、子どもだからといって大人が全てを許していれば、学ばずに大人になってまた誰かを傷つけかねない。実際、本人の事情も知らず偏見や憶測で誰かを傷つけ、追い詰めてしまうことは大人になってもある。牧野の言葉はそんな私たち大人の胸にも強く語りかけてきた。

 怖い先生と誤解されがちだが、「私を初めて見つけてくれた先生」とゆきが心を許したように牧野は少しずつ児童の信頼を得ていくのだろう。松下の好演が光った第1話だが、森川葵が演じる6年2組の担任・篠谷の存在も見逃せない。彼女が牧野に語った「みんながみんな本心を見せてくれるわけじゃない」という言葉が印象的だった。その頑張りが空回りしているところもあるが、少なからず彼女は生徒たちのことを全て理解できているわけじゃないことを分かっている。その上で生徒たちが出しているわずかなサインを見逃さないようにしている。牧野は観察眼に優れているが、彼がいるのはあくまでも保健室。教室の中で起きていることはわからないし、先生との連携も必要になってくる。今はぶつかることも多い2人だが、いずれは大事なパートナーとなってくるのではないだろうか。

 今回のメインであるゆき役の増田梨沙、拓真役の柊吾をはじめ、児童を演じる子役たちの名演もこの物語の重要な要素を担っている。特に鍵を握ってくるのは、転校生の啓(岡本望来)だろう。「牧野先生って患者を殺したらしいよ」という彼女の衝撃的なセリフで締めくくられた初回の放送。冒頭にも患者の親(塚本高史)から「誤診じゃないのか」と言われる回想シーンがあったように、本作は牧野の過去も見どころになってきそうだ。

■放送情報
土ドラ9『放課後カルテ』
日本テレビ系にて、毎週土曜21:00〜放送
出演:松下洸平、森川葵、ホラン千秋、平岡祐太、高野洸、六角慎司
原作:日生マユ『放課後カルテ』(講談社『BE・LOVE』所載)
脚本:ひかわかよ
演出:鈴木勇馬ほか
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:岩崎秀紀、秋元孝之、大護彰子
協力プロデューサー:大平太
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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