『光る君へ』柄本佑が虚ろな目で表現した道長の闇 父・兼家のように権力に取り憑かれるか

 加えて、まひろに対する道長の言動にもハラハラさせられる。第35回の終わり、まひろと道長の仲睦まじげな様子を左衛門の内侍(菅野莉央)が物陰から見ていた。劇中、左衛門の内侍が赤染衛門(凰稀かなめ)にまひろと道長のただならぬ関係をそれとなく伝えていたが、すでに女房たちの間で2人の関係は噂になっている。そんな中、道長は「五十日の祝」の場で公任に話しかけられるまひろを見留めると「藤式部」とまひろを呼び寄せる。「なんぞ歌を詠め」と命じた後、まひろが見事な歌を披露すると、それに呼応するように歌を交わした。

 まひろが藤壺へ来てからの道長の行動は大胆だ。度々、まひろの局を訪れては言葉を交わし、時にはともに空を見上げる。左衛門の内侍でなくとも、まひろと道長が互いを信頼し合う様子を目撃していれば、彼らが特別な縁で結ばれていることなぞ一目瞭然だ。道長としては、娘のために学問の才に溢れた女房を呼び寄せて歌を詠ませたまで、と考えているのかもしれない。

 だが、まひろを呼び寄せる道長のまなざしは、女房の一人を呼び寄せるものにしては恋しいものに映ったし、声色にもその心情が感じ取れる。阿吽の呼吸で歌を交わした2人を見てささやく女房たち、そして何かを察したかのように顔を曇らせた倫子(黒木華)の反応を見れば、宮中の女性たちは、少なくとも2人がただの主従関係でないことを悟ったのではないか。第36回は、赤染衛門がまひろに道長との関係を問いただす幕引きとなった。心に“闇”を広げたように感じられた道長の今後の言動は、宮中でのまひろの立場をますます危うくするかもしれない。 

 とはいえ、第36回は不穏な場面ばかりではない。特に、彰子の変化に胸を打たれた視聴者は少なくないはずだ。

 彰子はまだ他の女房たちにはそれほど心を開いていないように見えるが、まひろへの信頼は厚い。一条天皇を驚かせるために内緒で漢籍を学びたいと打ち明け、学ぶ意欲を見せる彰子の表情は明るい。出産を前に不安を抱えながらも、まひろの言葉に安堵した様子を見せたり、無事に出産した我が子を愛おしそうに見つめて穏やかな笑顔を見せたりといった姿が印象に残っている。

 そして最も印象的なのが、一条天皇が子に会うため土御門殿に行幸した際の彰子の姿だ。彰子は薄紅色の衣ではなく、澄んだ青色の衣を羽織っている。青色は、彰子がまひろと2人きりの時に打ち明けた、彼女が本当に好きな色。顔つきにも変化があった。これまでは誰と話すにも伏し目がちだった彰子が、一条天皇の顔をしっかりと見るようになっていた。一条天皇が子を抱き上げる姿を見上げる晴れやかな表情には、父・道長に感じた“闇”とは対照的な“光”が感じられた。 

■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

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