綾野剛は何度でも“再ブレイク”を果たす 特筆すべき作品理解力と言語表現力

 2024年、俳優・綾野剛の活躍が目覚ましい。1月に公開された山下敦弘監督作『カラオケ行こ!』で実写化不可能と思われていた和山やまの原作キャラクターを見事にものにし、新たなファン層も獲得。そして、Netflixシリーズ『地面師たち』で主演として作品を牽引し、『MIU404』(TBS系)で演じた人気キャラ・伊吹として映画『ラストマイル』にも出演。10月から11月にかけては『まる』『本心』にも出演し、12月公開の『劇場版ドクターX』にも出演していることが発表された。

『劇場版ドクターX』©2024「劇場版ドクターX」製作委員会

 これまでも数え切れないほどの代表作がある綾野だが、2024年の活躍は三度の“再ブレイク”と言っても過言ではないだろう。綾野にもたびたびインタビューをしている、映画研究者・翻訳家の篠儀直子氏はその凄さを次のように語る。

「各所で繰り返し語られていることですが、綾野さんの役者としての一つの特性として、役を“自分のものに引き寄せてしまう”点があります。『カラオケ行こ!』の実写化が発表されたときも、原作ファンの方々から『綾野さんは違うのでは?』という声が挙がっていました。しかし、蓋を開けてみれば、多くの観客が綾野さんの成田狂児に魅了された。過去にも『るろうに剣心』の外印や、『亜人』の佐藤、『幽☆遊☆白書』(Netflix)の戸愚呂弟など、荒唐無稽ともいえるキャラクターを自分のものにしてきました。それができるのも、原作を再現するというよりも、原作を取り込んで、実写化された作品の中で生身の人間だからこそできることは何かを考え、理解しているからだと思います。実写化以外のどの作品でも、綾野さんが演じられると、最初からそういう人が世の中に存在していたとしか思えないものになるんです」

映画『カラオケ行こ!』成田狂児(綾野剛)の「紅」熱唱シーン!

 綾野のフィルモグラフィーを振り返ると、『仮面ライダー555』(テレビ朝日系)でのデビューから、低予算の自主映画なども積極的に出演しながら確実にキャリアを積み上げ、一人ひとりの作家たちと向き合ってきたことがよく分かる。たびたび同じ監督・制作チームの作品に起用されているのも、彼が現場で作品に真摯に向き合っていることの証左なのだろう。篠儀氏は綾野のキャリアの中でも特に印象的な作品として2014年の呉美保監督作『そこのみにて光輝く』に言及する。

「役者さんによっては、覚醒のきっかけ、転機になる作品や作家との出会いがあると思うんです。その点、綾野さんはどちらかというと、何かをきっかけにガラっと変わったというよりは、着実にひとつひとつ積み上げていった印象があります。ただ、その中でもその積み上げてきたものが爆発したひとつの作品と言えるのが『そこのみにて光輝く』です。呉美保監督の演出、高田亮さんの脚本が優れていたことがあるのはもちろんですが、綾野さんが主演として明らかに作品を底上げしていた。現場でも積極的に動きなども提案していたそうなのですが、該当のシーンを見返してもそれがあるとないとでは意味合いが大きく変わってしまうぐらい重要なものになっていました。監督の言葉、現場の空気、美術部が用意してくれた衣装など、その場のものをすべて受け入れて自分の演技に還元することができる。先程も述べましたが、彼は作品理解力が本当に優れていると思います。綾野さんがこれまで演じてきた役は、『アウトロー的人物』『繊細な人物』『真摯でひたむきな人物』など、いくつかグループ分けはできるものの、以前の作品と同じことを繰り返している印象にはならない。作品ごとにまったく違う人物として現われます。作品と毎回とことん向き合い、それぞれの役を、取り替えのきかない個人として作り上げているからだと思います」

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