『となりのトトロ』はなぜ海外でも愛されているのか? イギリスでは舞台版が大ヒット

 海外で人気の日本アニメと言えば、『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』、『ポケットモンスター』などが挙げられるが、特に芸術的なクオリティや奥が深いストーリーテリングで高い評価を得ているのが、スタジオジブリの作品だ。なかでも、『となりのトトロ』はイギリスで舞台版が大ヒットしていることもあり、この機会に本作が海外で多くの人に愛されている理由について分析してみたい。

イギリスで舞台版が大成功

My Neighbour Totoro West End Trailer

 宮﨑駿監督によるアニメ映画『となりのトトロ』(1988年)はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによって舞台化され、 2025年3月よりロンドンのジリアン・リン・シアターにて無期限ロングラン公演が決定しているほどの人気ぶりだ。

 イギリスの劇作家トム・モートン=スミスが脚色し、映画版でも楽曲を手がけた久石譲が音楽を担当する舞台版は、オリジナルの物語と世界観を尊重しながらも、舞台だからこそ可能な表現で観客を魅了している。

 『The Guardian』は、フェリム・マクダーモットの演出による舞台版について「映画の完全な複製ではない」と称し、「舞台版には異なるイマジネーションが働いているが、映画と同様の魅力であふれ、感情的なインパクトがより大きいのではないか」とレビューしている(※1)。

 物語の主人公となるサツキとメイは大人の俳優が演じているため、最初は違和感もあるが、徐々に観客を魅了していくという。セリフのない長いシーンですら、瞑想的で魔法のような音楽と視覚的なストーリーテリングに満ち、折り紙のように動く舞台セットもパラパラ漫画のような生き生きとした素晴らしい流れを生み出し、その構成と美しさが称賛されている。

 舞台版でも日本の神道と民間伝承の要素が取り入れられており、夢の世界と現実の区別がつかない境界線や、子どもの想像力と自然の大切さをテーマの核に置くことで、スピリチュアルなエネルギーを帯びているという。西洋のおとぎ話とは異なる要素が、観客を魅了しているようだ。

『となりのトトロ』が海外のファンを魅了する理由とは?

 『となりのトトロ』と言えば、なんといっても日本の田舎や里山といった、心に平静をもたらしてくれる景色が見どころの一つだ。自然の中で生きる喜びや自然の精霊との触れ合いは、国境を越えて多くの人々が共感を覚えるテーマではないだろうか。また、テクノロジーの発達で家族団らんの機会が減少しつつある現代では、サツキとメイが育む姉妹愛や家族の絆は、どの国に住んでいる人々にも訴えかけるものがある。本作は、せわしない日々を送る現代人が忘れがちな人情や不変的な価値観、伝統の大切さなどを思い起こさせてくれるだけでなく、猛スピードで走る猫バスでのドライブや、巨体のトトロが放つ存在感など冒険の要素も満載だ。

 老若男女問わず、誰もが一緒に楽しめる『となりのトトロ』の舞台版が、映画と同様に高い支持と人気を得ているのも納得である。舞台版の評価はうなぎ上りで、2023年には英国演劇界で最高峰となるローレンス・オリビエ賞で最多6冠に輝く栄誉も手にした。

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