『西園寺さん』が描く“人に寄り添うこと”の意味 視聴者を没入させる“必然”の積み重ね

「私たち変なんだよ。変なのが普通なんだよ。だったら、とびっきり変な、前例のない変になってみようよ。偽家族になるの」

 『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)の、こうした台詞に、たびたびハッとさせられる。人の幸せに決まった形などない。どちらに進めばストレスなく、心地よく、ワクワクできるか。自分の幸せは自分で決める。前例がないなら、自分が最初の前例になればいい。

 38歳独身の西園寺一妃(松本若菜)は、アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとして働くバリバリの“しごでき”。同僚や取引先からの信頼も厚く、自らが企画したアプリ「家事レスキュー」という家事サポートアプリは大ヒットした。「ひらめき」と「ワクワク」を第一信条に、何事にも全力投球の西園寺さん。しかしその反面、家事には一切のエネルギーを使いたくない。念願の「家事ゼロハウス」を購入し、愛犬・リキと共に暮らす理想の生活が始まった。そんな矢先、ひょんなことから、同僚でシングルファザーの楠見俊直(松村北斗)とその娘・ルカ(倉田瑛茉)と、「偽家族」を結成し、暮らしていくこととなる。

 本作の作り手は、この「ひょんなこと」の描き方が抜群に巧い。外から見れば“異常”とも呼べる生活形態に3人が至る「状況の必然」。西園寺さんと楠見とルカの間に、得難い絆が生まれるまでの「心の必然」。この2つの「必然」が実に自然に、なおかつ論理的に積み重ねられている。

 西園寺さんが「夢の家事ゼロハウス」を購入する。ローンの負担を減らすために賃貸つき物件にリノベーションする。借り手を募集していたところ、シングルファザー家庭の楠見とルカが火事で家を焼け出された。西園寺さんが持ち前の「おせっかい」と「バババーッ」精神を発揮し、「家が決まるまでうちにいなよ」と誘う。

 ここまでなら、比較的ありがちな展開と言えるのかもしれない。しかし楠見家の「住む家が見つかるまで」という約束がその後「正式入居」となり、楠見家は「西園寺さんのプライベートに立ち入らない」という「誓約」が、「遠慮しない」「頼って頼られて」の「偽家族」に発展するまでの「状況」と「心」の過程が実に細やかに描かれていて、観る者は物語の中にスッと没入することができる。

 楠見は、亡き妻・瑠衣(松井愛莉)がそうしていたように「家事も育児も完璧にこなさなければ」とがんじがらめになっていた。そんな楠見を見た西園寺さんは、自分の母親を思い出す。母がストレスを抱え込んで誰にも話せず、限界点に達して、突然家を出ていくまで何もできなかった自分を悔やみ、なぜ自分が「やりたくないことをやらなくていいために、やりたいことをやる」という生き方を選んだのかを再確認する。

 「僕はダメな父親です」とこぼす楠見に西園寺さんは、「ダメでもいいんだよ。ダメでもダメじゃないんだよ。だってそれも楠見くんじゃん。それを否定するる権利なんて誰にもない。楠見くんにもない」と訴えかける。そして、かつて瑠衣がやっていた「茄子を丸のまま焼く」という調理法の理由についてルカが明かした、「楽しいから」という言葉に不意を打たれる。

 完璧に家事育児をこなしていた瑠衣は「楽しかった」のだ。でも、西園寺さんの母親は「楽しくなかった」(と西園寺さんは思っている)。似たような状況でも感じ方は十人十色。だから、それぞれに合った形の楽しさや幸せを模索して、見つけていけばいい。この、当たり前だけれど、忘れがちなスタート地点に西園寺さんと楠見が立つ。

 やがて、楠見が朝夕の食事作りや掃除などの家事を請け負って、西園寺さんの「家事ゼロ」をキープしながら、より豊かで快適な生活を提供する代わりに、全自動洗濯乾燥機を貸してもらい、自分が行けないときにルカの保育園のお迎えを西園寺さんに頼むというWin-Winのシステムが出来上がる。「頼って、頼られる」ことで、互いのQOLが向上する。

 愛くるしい4歳のルカの奔放さが、いつも壁の決壊の鍵を握っている。霊が見えてしまうので「ホテルやだ」「ここがいい」と言って「偽家族」のきっかけをもたらす。ルカがジュースをこぼしたとき、西園寺さんが仕掛けて、楠見の義母・里美(奥貫薫)に着替えを取りに行ってもらい、楠見の部屋で「父娘の生活」を目の当たりにしたことで、里美の心がほどける。子どもの無垢な「否応なし」感が、物語の大きな動力になっているところも魅力だ。とまどい、恥じらい、よろこび、悲しみ、人懐っこさ……演じる倉田瑛茉の表情が素晴らしい。

 第6話で明らかになった、カズト横井(津田健次郎)の「こども食堂」の活動も、西園寺さんに大きな気づきを与える。

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