『インサイド・ヘッド2』世界的大ヒット! その要因のひとつ“リピーター”が多い理由とは?

 ディズニー&ピクサー映画『インサイド・ヘッド2』が世界累計興行収入15億9447万ドル(約2349億円)を突破し、歴代興行収入ランキングトップ10に入った。2015年に公開された前作『インサイド・ヘッド』の興行収入を上回るだけでなく、アニメーション映画として史上最高記録を更新し続けている。日本でも8月1日に公開を迎え、2024年洋画No.1のオープニング記録を達成。8月12日までの日本での累計興行収入は20億41万9600円(前夜祭興行を含む)で、今年の洋画作品で最速の公開12日間で興行収入20億円を突破している。そんな本作の大ヒットの要因として、リピート鑑賞者の存在が大きいように感じる。映画館離れが謳われる昨今、何度も劇場に訪れるほど人々の心を掴む『インサイド・ヘッド2』の魅力に迫る。

より共感しやすく、大人にこそ深く刺さる

 実は、前作『インサイド・ヘッド』はもともとリピーターが多い作品だった。昔からピクサー作品の人気が高いことは言うまでもなく、『トイ・ストーリー』をはじめ数多くの作品が「何度観ても楽しめる」映画として愛され続けている。『インサイド・ヘッド』も例に漏れず、少女の頭の中を舞台に擬人化された「感情」たちを主人公にする斬新な設定と世界観で、多くの観客を魅了した。だからこそ、誰も見たことのないユニークでイマジネーションあふれる世界を描くピクサー作品としてリピート鑑賞そのものは珍しいことではない。しかし『インサイド・ヘッド』シリーズ独自の魅力は、やはり“教科書”とさえ呼ばれる内容の深みそのものを自身の解釈で読み解ける点ではないだろうか。

 第1作は、引っ越しをきっかけに心が動揺するライリーと、彼女の頭の中で「ヨロコビ」や「カナシミ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」たちの“感情”が引き起こす騒動について描かれた。その中でも特に映画のハイライトと言えるのが、イマジナリーフレンドのビンボンとの別れ、そして「ヨロコビ」が「カナシミ」も大切で必要とされる感情であると気づいた場面。子供にとっては感情のメカニズムをわかりやすく、そして楽しい視覚情報とともに理解することができる一方で、大人は自分の中にある「カナシミ」を受容することへの肯定感に涙が出てしまった、なんてこともあったのではないだろうか。その“大人にこそ刺さる”ストーリーテリングやコンセプトはピクサーの得意分野なのだが、現在大ヒット中の続編でもまさにその特徴が際立っている。

 高校入学を控えるライリーの頭の中を捉えた『インサイド・ヘッド2』。前作のラストで感情操縦デスクに「Puberty(思春期)」のボタンが追加されていたことが伏線となり、本作では思春期に突入したライリーの新しい大人の感情……「シンパイ」「イイナー」「ハズカシ」「ダリィ」が登場する。前作では見られなかった“頭の中の新しい機関”を見て知る楽しみもありつつ、やはり今作でもそれぞれの感情の見せ方のうまさ、彼らの行動そのものが人間(ライリー)にどのようなメンタルイシューをもたらすのかを秀逸に描いている点が最大の魅力と言えるだろう。より感情たちの行動と密接して描かれているせいか、ライリー自身も前作に比べて存在感が増し、物語を動かしていく。そして彼女が向き合う悩みは、10代はもちろん、大人が今でも悩んでいることでもあるため、ライリーに課せられた試練そのものへの既視感も相まって、鑑賞者がより追体験しやすくなっているのではないだろうか。

 そして『インサイド・ヘッド』の大きな特徴の一つが、ペアレンティング(子育て)においても重要な作品だったこと。実際、第1作の監督を務めたピート・ドクターは自身の娘の成長や感情の変化に戸惑う気持ちが作品を作るきっかけになったと話しているのだが、続編でも改めて自分の子を(そして自分自身を)よりよく理解する上で大切なことがたくさん描かれている。そういった意味で“教科書”と喩えられていた前作。『インサイド・ヘッド2』はさらに複雑な感情を扱うだけでなく、「ヨロコビ」や「イカリ」などお馴染みのキャラクターが“違う一面”を見せる新しさもある。2回目、3回目の鑑賞で、注目すべきキャラクターや視点を切り替えることで、刺さるポイントのさらなる再発見に繋がるかもしれない。

 キャラクターで特筆すべきは、やはり「シンパイ」の存在だ。彼女のなすこと全てがライリーにどのように作用しているのか、そしてライリーの中の「ヨロコビ」の力を弱めてしまうこと、「シンパイ」の暴走によって頭や体が意に反して動いたり、あるいは動かなくなったりしてしまうことなど、“メンタルブレイクダウンの最中、頭の中で何が起きているのか”が、映像表現を通してわかりやすく描かれていた。この作品にはやはり非常にわかりやすくて大切なことが描かれているシーンがあまりにも多い。だからこそ自分の感情を理解し、大切なことを忘れないように何度も何度も観たくなる、観るたびに深く刺さる作品とも言える。

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