『インサイド・ヘッド2』監督をなぜ続投しなかった? ピクサーCOOピート・ドクターが語る

 世界興行収入が15億5506万2246ドル(約2323億円)を超え(※8月4日付け、Box office mojo調べ/1ドル149.41円計算)、世界興行収入ランキングでトップ10入りを果たすなど大ヒットを記録しているディズニー&ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』。日本でも8月1日に公開を迎え、公開4日間(7月31日の前夜祭興行を含む)の累計動員数は57万人、累計興行収入は7億円を超え、2024年洋画No.1のオープニング記録を達成した。日本公開前にはスタッフ陣がプロモーションのために来日。前作『インサイド・ヘッド』では監督を務め、本作では製作総指揮を務めたピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)であるピート・ドクターにインタビューを行い、監督を続投しなかった理由やピクサーの今後について語ってもらった。

「もし自分が手がけていたら、また違った作品になっていた」

ーー2015年公開の『インサイド・ヘッド』から9年ぶりの続編となりました。続編のアイデアは1作目のときからあったのでしょうか?

ピート・ドクター(以下、ドクター):前作の段階では続編のことは全く考えていませんでした。ピクサーでは、そのタイミングで取り掛かっている作品にとにかく注力して、その作品を最高のものにすることだけを考えているんです。なので、次の作品のことを考えた瞬間に、なにか悪運に見舞われるのではないかと思ってしまうんです(笑)。それに、続編を作るとしても、前作を観ていない人が単体で観ても楽しめる作品にする必要があるので、結果的にすべてが自立していなければならないんです。

ーー前作では監督を務められていましたが、今回はケルシー・マンが監督を引き継ぎ、あなたは製作総指揮に徹していますね。

ドクター:ちょうど僕は『ソウルフル・ワールド』(2020年)の制作に入っていたので、もし自分が監督していたらあと2年は必要だったと思います。なので今回はケルシー(・マン)に監督を任せました。逆に僕は、他の人に監督を引き継ぐことに対して、ワクワクしていたんです。自分がこの作品で言いたいことは1作目で充分成し遂げていたので、他の人にこの作品を委ねたときに、どこに連れていってくれるのかという期待感がありました。そして、ケルシーが持ってきてくれたアイデアのひとつに、“シンパイ”という感情がありました。そのアイデアは僕にもすごく響きましたし、実際に前作の世界観とキャラクターたちをうまく活かしながら、ちゃんとケルシー自身の作品になっていると思います。クリエイターたちはみんな違った声を持っているので、もし自分が手がけていたら、また違った作品になっていたでしょう。

ーー逆にピートさんから提案したアイデアはあったんですか?

ドクター:もう少し時間があれば、僕が考えたギャグなど具体的なことをたくさん言えるのですが……(笑)。大きなところで言うと、第3幕のシンパイがバタバタし始めるところだったり、ライリーが木に登って危機に直面するところなどです。1作目のときから一緒にやっているスタッフとまた作業ができたのは楽しかったですね。とはいえ、僕以外にもたくさんの人のアイデアがこの作品には詰まっています。そしてアニメーションや照明、スペシャルエフェクトなど、すべてを見なければいけないのが監督の仕事なので、ケルシーは素晴らしい仕事をしてくれたと思います。ついでに、媒体名が「リアルサウンド」ということなので、まだ誰にも聞かれていない“音楽”について話してもいいですか?(笑)

ーーぜひお願いします!

ドクター:音響は前作に続いて、デヴィッド・フィンチャーの作品の音響も手がけているレン・クライスにやってもらっているのですが、今回の作品において彼の仕事が素晴らしいのは、音響と音楽をシンクロさせていることです。「信念の泉」のシーンの音も、劇伴の一部とシンクロするようなサウンドにデザインしてくれています。音楽に関しては、前作のマイケル・ジアッキーノに代わり、今回は彼のパートナーであるアンドレア・ダッツマンが担ってくれました。彼女の仕事も素晴らしいものでした。「信念の泉」のリラックスした雰囲気は、まさにレンとアンドレアによって生み出されたものだと思います。2人のプロフェッショナルが、プロットに合わせて音楽をシンクロさせていく作業を見るのは、僕にとってものすごく楽しい作業でした。

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