『虎に翼』岡田将生演じる航一のミステリアスな色っぽさ 東京から新潟での変化を読み解く

「こんな話するつもりじゃなかったのにな」

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』第90話で、航一(岡田将生)はそう言いながら自分の過去について語り始めた。直前に寅子(伊藤沙莉)は「無理に話さなくていい」と言っていたし、他者との線引きをしっかりしてきた航一だ。この件についてはぐらかすことも、話すことを断ることもできただろう。でも、一方でしゃべりたい気持ちにもなっている自分に航一自身が困惑しているようにも見えた。

 寅子と航一が出会ったのは、航一の父・星朋彦(平田満)の本の改稿作業の時。“線引きモード”の航一は、寅子と作業することに対して嫌な顔はしなかったが何事にも「なるほど」とだけ返し、必要最低限のやりとりしかしないつもりなのが丸わかりだった。しかも寅子のことを間接的に知っていて、初対面で「“あの”佐田さんですね」というような含みのある言い方をしたこともあって、寅子は航一と一緒にいることに気まずさを感じていた。

 航一を演じる岡田将生は、最初、航一の口癖の「なるほど」のトーンを変えてニュアンスに違いを出し、それを使い分けることであまり態度には出ない彼の心の内を表現していた。そんな航一が初めて変化を表情で見せたのは、本の改訂が終了し、朋彦が直接記したいと言った序文の完成を甘味処の「竹もと」で待っていた時ではないだろうか。航一から朋彦のこれまでを聞いた寅子は、ふと「その時の自分にしかできない役割があるのかもしれない」とつぶやいた。寅子は気がつかなかったようだが、その言葉を聞いた航一はハッとした表情を見せた。この時はなぜ航一がこのような表情を見せるのかがわからなかったが、航一の過去を知った今なら、「総力戦研究所」の日々のことを思い出していたのではないかと考えてしまう。

 この出来事をきっかけに航一は、次第に寅子に対する警戒を解いてゆっくり確実に変化していった。それにあわせて基本的にクールな岡田の演技や表情にちょっと不器用な優しさが垣間見えるように。新潟に異動してきた寅子のもとに、何かしらの理由をつけては何度も訪ねてきた航一。その行動はまるで彼女が困っていないかを探っているようだった。周りの人に寄り添いたい寅子の性格とそんな優しさを利用してある意味で抱き込もうとする杉田(高橋克実)たちのような人たちとの相性を考え、寅子が裁判官として間違った方向にいかないかを心配したのかもしれない。結果として寅子は、杉田のような地元の人々に、相変わらずのがっちり“線引きモード”で接する航一の姿を目の当たりにしたこともあり、“寅子らしさ”はそのまま、周りとの関係も悪化させずに裁判官としての仕事をこなしている。

関連記事