桜井ユキ、“華族のご令嬢”からの見事な脱皮 『虎に翼』身分を失っても消えない涼子の美点

 現在放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)で、航一(岡田将生)の行きつけである喫茶ライトハウスへとやってきた寅子(伊藤沙莉)は、涼子(桜井ユキ)と玉(羽瀬川なぎ)と再会を果たす。第17週初回となる第81話では、寅子と涼子が涙ぐみながら再会を喜んでいた。

 桜川涼子は寅子とともに法を学んでいた学友だ。元は華族生まれのお嬢さまで、初登場となった第6話では、語り部(尾野真千子)によって「この時代、華族のご令嬢は雑誌でも特集が組まれるほどの有名人」と紹介されていた。涼子が新入生代表挨拶をする場面で、涼子を演じている桜井の佇まいは凛としていて美しく、まさに「女子の憧れの的」を体現していた。明律大学女子部の同級生たちの中でもひときわ目を引く存在だが、寅子たちとの交流が深まる中で、涼子自身の人柄はとても穏やかで親しみやすいことが伝わってくる。

 特に、彼女が胸を躍らせる姿や好奇心旺盛な一面は魅力的に映った。桜井は本作の公式ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』(NHK出版)で、当時の華族の女性には歯を見せて笑ってはいけない、指を開いてはいけないなど事細かな決まりがあったと語っている。桜井はそんな華族の女性の所作を自身に深く落とし込みながらも、ふとした瞬間に涼子自身の素直な感情が見えてくる、そんな演技を見せてくれた。

 たとえば女子部が法廷劇を上演することになった第11話では、涼子が「トラコちゃん。よかったら脚本読んでみてくださらない?」とワクワクした面持ちで寅子に話しかける。その表情には、脚本を書き上げたこと、その脚本を寅子に読んでもらうことへの嬉しさが滲み出ていた。寅子の家を訪れた際は、張り子の虎に触れてどこか無邪気さを感じる微笑みを見せたり、寅子の部屋を興味深そうに隈なく見回したりしていた。梅子(平岩紙)に「珍しいですか? 庶民の家は」と声をかけられ、「やだ、私ったら」と謝まっていたが、涼子の行動に悪気がないことは見ていて分かるし嫌味もない。それは桜井の表情から涼子の純粋な好奇心が伝わってくるからだろう。法廷劇の再検証のため、寅子たちが実際にまんじゅうを作ってみる第14話では、皆で作ったまんじゅうを食べながら「とってもおいしいです」ととても嬉しそうに味わう涼子の姿が印象に残っている。

 涼子自身が口にしていたが、寅子たちは自分を特別扱いしない。だからこそ、涼子は寅子たちの前で、華族の令嬢ではない自分でいられるのだ。皆で弱音を吐く場面で涼子が言った「私が優秀なのは、私が努力したからなのに、それを誰も認めてくれない。恵まれているからだ、華族だからってまとめられるのが嫌!」という言葉には、華族ならではの苦しみが凝縮されていた。

 桜井は回を追うごとに、華族の令嬢として他者を意識し続け、内向的でいざるを得なかった涼子が、寅子やよね(土居志央梨)に感化され、自分の意思を表に出すようになる変化を真摯に演じてきた。特に、涼子が弁護士ではなく結婚の道を選んだ第28話は、心苦しい回ではあるが印象深かった。

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