『おっさんずラブ』を脚本・徳尾浩司が語り尽くす 「また書きたいという気持ちは常にある」

 2018年にテレビ朝日系で放送された“初代おっさんずラブ”の続編として、2024年1月期に放送され好評を博した『おっさんずラブ-リターンズ-』のBlu-ray&DVDが7月3日に発売される。田中圭、吉田鋼太郎、林遣都らレギュラーキャストが再集結したほか、新キャストとして井浦新と三浦翔平が参戦し、新たなラブ・バトルロワイヤルが繰り広げられた本作。Blu-ray&DVDの発売を記念して、“初代おっさんずラブ”から脚本を手がけている徳尾浩司にインタビュー。『おっさんずラブ-リターンズ-』について、余すことなく語ってもらった。

「型にはまっていなくとも、それぞれが認め合うことができればいい」

――『おっさんずラブ-リターンズ-』に関しての視聴者の方々からの反響は、徳尾さんの元にも届いていますか?

徳尾浩司(以下、徳尾):ネットで反応を見させていただいています。5年前にこの作品を好きになってくださった方がとても多いので、その方たちにもきっと喜んでいただけただろうし、観たことのない人にも観やすい作品になるように心がけました。

――今もまさに『おっさんずラブReturns展-WE ARE ALL FAMILY-』が8月まで全国を巡回していて、放送後も熱が続いてるところもありますよね。

徳尾:そうですね。僕が『おっさんずラブReturns展』に行った時は、女子高生の2人組から、30代~40代ぐらいのカップルまで幅広い年代の方が来てくださっていて、いろんな方が観てくれているということを肌で感じましたね。

――放送終了後に、あのちゃんが『おっさんずラブ』シリーズにハマり、自身のラジオ『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で話したことから、公式ブックにコメントを寄せるという流れもありました。

徳尾:嬉しかったですね。僕もラジオを聴きましたけど、もはや田中圭さんにハマっているのか、BLにハマっているのか分からないと言っていましたよね(笑)。

――あのちゃんを例にして、放送後に『おっさんずラブ』にハマる人というのは、潜在的にまだまだ全国、全世界にいるんだろうなというのが想像されますよね。

徳尾:タイでも2024年の冬に『Ossan’s Love Thailand』としてリメイクが決まっていて、制作発表をYouTubeで見ていたのですが、世界の遠い場所で、日本語ではないほかの言語で盛り上がっているのを目にすると、いろんなところに作品が広がっていることを実感します。

――『リターンズ』は『おっさんずラブ』から5年ぶりの続編として放送されましたが、最初にシリーズが始まった2018年~2019年辺りからは、世の中のジェンダー観、セクシュアリティの考え方がアップデートされているのを感じます。『おっさんずラブ』のほかにも同性同士の恋愛を描いたドラマが多く制作されていますし、例えば『どうする家康』(NHK総合)のような大河ドラマにも女性同士の恋愛が描かれていたりもします。そういった時代が少しずつ動いている中で、徳尾さんとしては多様な愛の形を描くということについてどのように向き合ってきましたか?

徳尾:2018年の頃から、『おっさんずラブ』は男性同士であるということを障壁として描くのではなく、男女、男性同士、女性同士にかかわらず、全ての人に通ずる王道の恋愛ドラマとして描いていこう、という思いは一貫していました。その気持ちは今回の『リターンズ』でも変わらずにあって、2018年が「恋愛」で思い悩む人たちの物語だったならば、今回は世界中どこでも普遍的にある家庭の問題を描くのが、『おっさんずラブ』らしいんじゃないかということで取り組んできました。この5年の間に、春田(田中圭)と牧(林遣都)がどのように生きて、どんな物語があったのかを考えながら、できるだけ同窓会的な雰囲気にはならないように、恋愛ドラマとしてのドキドキからは一歩進んだ、年齢を重ねた彼らの家族としての日常を描きたいというところから作り始めたので、物語としては全体として温かい話になったと思います。

――育児の難しさだったり、年の差婚、ペットを家族として迎え入れるといったように、様々な角度から家族の形を描いていますよね。

徳尾:台本を一緒に作っている10人ぐらいのチームがあるんですけど、その中だけでも十人十色の家族の形があって、それはどれも愛おしくて尊重されるべきだなと思ったんです。たとえほかから見たら変わっていても、型にはまっていなくとも、それぞれが認め合うことができればいいとチームでも話していたので、ドラマでも決して比べたり、貶めたり、持ち上げたりしない距離感や心地良さが出ればいいなと思っていました。

――人の数だけ価値観があるというか。

徳尾:ドラマは価値観を押し付けるものではないですし、何を正しいとするかは人それぞれだと思うので、どれも素晴らしいところがあるじゃないかと描くことが、生きやすい世の中に繋がるのではないかという実感のもとに、今回のホームドラマというのができていきました。

――徳尾さんが脚本を務めた『unknown』(テレビ朝日系)は、今回の『リターンズ』と密接に関係しているのではないかと思っています。『unknown』は『リターンズ』の放送の前に『おっさんずラブ』チームが再集結した作品ということもありますが、性別や人種、セクシュアリティを超えていった先にある愛の形というのが『unknown』のテーマでもあります。そこは徳尾さんの中で、『おっさんずラブ』と通ずる部分もありますか?

徳尾:それはあると思いますね。『unknown』は人種を超えたというか、生き物すらも超越しているという(笑)。そういったところをファンタジーにしつつ、自分の身の回りにいる人たちがもしかしたら吸血鬼かもしれないと思うことによって、相手を尊重したり、受け入れられたりする、というテーマは『おっさんずラブ』から始まっている気がします。プロデューサーの貴島彩理さんと2人で作る台本の元にはそういった理念が共通してあると思います。

――徳尾さんのSNSを拝見すると、『リターンズ』の打ち合わせが始まったのが2022年の7月とあるので、そういった時系列も含めて、『unknown』とは地続きにあるのかなと思ったりもしています。

徳尾:『unknown』の方が放送は先なんですけど、制作の時期はほぼ被っているんです。『リターンズ』と『unknown』を行ったり来たりしながら両方の打ち合わせをしていたので、通ずる部分はたくさん出てくるかなと思います。

――今回の『リターンズ』では、和泉(井浦新)と菊之助(三浦翔平)、秋斗(田中圭)による“公安ずラブ”こと「警察学校編」が描かれているところも大きなポイントです。従来の『おっさんずラブ』とは別ドラマのようなテイストで、『おっさんずラブ』だからこそできたことでもあると思いますが、これはどのようなアイデアから生まれたのでしょうか?

徳尾:井浦さんと三浦さんが新キャストとして加わるということで、和泉さんは公安、菊之助は同じく公安にするか、武蔵(吉田鋼太郎)の後輩として「ばしゃうまクリーンサービス」の家政夫にするか、それともワゴン販売のパン屋さんにするか、花屋さんにするか……というように、いろんな組み合わせを考えていたんです。結局、2人は春田と牧の隣に住む公安ということになり、公安として具体的に何を追っているかまではドラマで深掘りせず、日常をメインに描いていくということになりました。そこから秋斗という和泉さんにとって大切な後輩がいるというアイデアが出てきて、もし秋斗の思い出を春田が聞いたらどんなリアクションをするんだろうと。そんな逆算から“公安ずラブ”自体はシリアスなトーンという発想になっていきました。書いていて楽しかったですね。和泉さんが話す秋斗に対して春田は「小悪魔っすね」と言いますけど、「どちらも演じているのは田中圭だから」という見方ができるのは『おっさんずラブ』だけですし、不思議な感じでしたね。

――田中圭さんが春田と秋斗の1人2役を演じているからこそ、春田のナチュラルなあざとさが際立っている感じもありましたよね。

徳尾:どちらも田中圭さんが役者として持っている重要な要素で、秋斗のような理知的で少しやんちゃではあるんですけど、色気のあるアダルトな感じの演技というのも得意だと思いますし、『おっさんずラブ』に代表される、国宝級にかわいいはるたんのような、両極端な役を同時期に演じるというのは書いている側としても楽しかったですね。

――徳尾さんから見て、井浦さんと三浦さんの演技はどのように映りましたか?

徳尾:『unknown』と同時期に打ち合わせは始まっていたので、僕はお2人とご一緒するのは、今回の『リターンズ』が初めてだったんです。台本を書いている途中に撮影現場の映像を送っていただいたりするんですけど、お2人とも役のイメージにぴったりで。なのに、新しい感じもするんです。和泉さんは井浦さんの持っているその雰囲気とか間合いが今までの『おっさんずラブ』のテンポ感よりもゆったりで、「Ctrl + C」とか「Ctrl + Z」をためて言うというところにも、新しい風を感じました。三浦さんが演じる菊之助は硬派とはまた少し違うのかもしれませんがキリッとした役で、目力が強くて、和泉さんとのコンビとしても面白かったですね。

――菊之助が和泉に対しては逡巡している感じもよかったです。

徳尾:秋斗は死んでしまっているので一生超えられない、和泉さんの恋人にはなれないと半分諦めてる感じの切なさがありましたよね。

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