令和版『花咲舞』主演が杏ではなく今田美桜である意義 “芯の強さ”は確固たる持ち味に

 今田美桜主演の日本テレビ系土ドラ9『花咲舞が黙ってない』がいよいよ最終回を迎える。2014年、2015年に杏が主演でドラマ化された、池井戸潤原作による新シリーズとして令和の花咲舞を演じてきた今田。ある意味“2代目花咲舞”としてどんな演技を見せたのか、最終回を前に改めてその魅力を振り返ってみたい。

 『花咲舞が黙ってない』で、今田美桜が演じる主人公の花咲舞は、相手が誰であろうと、自らが正しいと信じることは強く主張する、とにかく曲がったことが大嫌いな人物だ。納得いかない命令に反論する時は「お言葉を返すようですが」と切り返すのがお約束。見方によっては融通のきかない生意気なキャラなので、芯が強く共感できる女性として視聴者が納得できる演技でないと成立しない役柄だ。

 こうした強気のキャラは、実は今田が得意とするところである。例えば、2019年の『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』で演じた、読者モデルでクラスの女子のリーダー的存在である諏訪唯月役は、女王様気質で気が強い役で、自分の生き方は間違っていないと虚勢を張っていた。しかし、他人にその心が理解された時、普通の人なら涙を流し弱みを見せるところを、それでも必死に気高くいようとして涙が抑えきれず込み上げてくる、その“リアルな”気の強い人の演技が秀逸で、最後まで弱みを見せないキャラへの徹底ぶりを見せた。

 また、2021年のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』での気象予報士・神野マリアンナ莉子役は、現場では常に笑顔を見せているが舞台裏では物事をはっきりと言うキャラで、一見強気で自信家かと思いきや、本番前に手が震えたり、小道具を忘れたり、千載一遇のチャンスが流れて炭酸片手にため息をつくなど、虚勢を張る人物ながらコミカルに演じていた。2023年の『トリリオンゲーム』(TBS系)の桐姫役では、欲しいものは何で手に入れようとするクールで強欲な才色兼備のIT企業のCEOを演じ、これまで以上に弱みは見せない気高いキャラなだけに、主人公が懐に入ってきた時の戸惑いを感じるかわいらしさが際立ち、背伸びした感じもまた敵対するボスキャラとして魅力的だった。

 今田が強気なお嬢さまキャラにハマる理由は、端正な顔立ちと目力のある凛とした出立ちだけでなく、真っ直ぐな演技の中に芯の強さがあるからこそ真の感情が伝わる点にある。特に気高い姿勢の人物が、虚勢を張っていた内に秘めた感情が溢れ出てきてしまった時の感情表現の美しさや面白さが実にうまい役者であるため、花咲舞はまさに適役だ。

 平成版の杏が演じた花咲舞は、バディとなる上川隆也と身長は変わらず、キャラ的にも親しみのあるお姉さんという印象だ。しっかりと考えをまとめた上で行動することや、“お言葉”を返す時、沸々と怒りが込み上げて爆発するといったものだった。それに対し、今田が演じた花咲舞は、問題に対しての積み重ねはするものの、どちらかといえば、いきなり走り出す感じや、テンションが高いまま言い返すような一本調子な真っ直ぐさなので、悲壮感漂う“生意気な小娘感”が強い。なので見方によってはかわいげのない人と見られる危険性もある。

 しかしそうした平成版との違いが、物語を一方的な勧善懲悪の戦いにはしなかった。第1話で、女性行員を見下す藤枝支店長(迫田孝也)に対し、花咲舞は最初に怒りを爆発させたが難なく反撃されてしまう。そこから静かに怒りを奮い立たせ迫っていく演技がとても秀逸だった。第3話では、小倉部長(矢柴俊博)に啖呵を切った後に、「演説は? それで終わりか?」と言い返されると、涙を溜めながら怒りで言葉が溢れ出し、本気度が伝わる演技に繋げた。それが“ピュアな感情”、つまり若さ故の余裕のなさにも見えるところがリアリティでもあり、花咲のやるせないモヤモヤ感も伝わってくる。これまで今田は敵役などで演じてきた強気のキャラが主人公になったらどうなるか、その期待に応える演技を見せた。

 また、真っ直ぐな芯の強さを感じる演技力があるからこそ、迫田孝也や矢柴俊博、 平山祐介といった曲者役者たちと対峙し、涙を浮かべても心は折れない拮抗した名勝負が生まれる。またドラマとしても、その舞が一生懸命戦っている姿にほだされた相馬(山本耕史)や行員たちに立ち上がりたくなる気持ちにさせ、みんなが会社を建て直す流れに持って行く。今田の真っ直ぐな演技が周りの登場人物たちを輝かせ、こうした積み重ねが、花咲舞という役に説得力が生まれていった。

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