『虎に翼』の凄さはヒロインの“変化”を肯定的に描かなったこと 2つの“地獄”を生きる寅子

 『虎に翼』は、常に“地獄”の道を行く。寅子は、第5話において、母・はる(石田ゆり子)に「それでも、本気で、地獄を見る覚悟はあるの?」と問われ、「ある」と答えた。それによって、ナレーションの尾野真千子が言うところの「地獄への切符を手に入れた」寅子は第40話で「歩いても歩いても、地獄でしかなくて」と言い、彼女の「地獄の日々は幕を下ろした」。それに伴い始まったはずの優三と娘・優未との「淡々と静かな平穏」。

 でも、これまでずっと、軸となる寅子と家族の物語と並走するように、新聞記事の片隅や市井の人々の様子、ナレーションを通して、彼女たちの日常に影を落とす戦争の存在を実に巧みに伝えてきた本作は、そうすることで、寅子の“地獄”の水面下に、もう1つの“地獄”を忍ばせてきた。そしてその、戦争という名の“地獄”は、寅子の地獄の日々の終了とともに肥大化し、優三を戦地に送り、直道(上川周作)はじめ花江(森田望智)の大切な家族の命を奪い、瞬く間に過ぎ去っていった。

 誰にとっても、地獄の時代である。勉強したくても勉強をする機会を戦争に奪われてしまった直明(三山凌輝)もまた、新たな地獄の只中にいる。私たちが生きていくこの世界のすべてが地獄だと言うのなら、ちゃんと見つめよう。寅子が再び立ち上がり、新たな“地獄への切符”を再び手にするまでの軌跡を。物語はいよいよ、本作の“はじまり”に辿りつこうとしている。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

関連記事