『虎に翼』が描くのは男女の違いではなく制度そのもの “轟”戸塚純貴の突出したバランス

 屈み女と反り男の具体例は、梅子と夫・大庭(飯田基祐)であろう。弁護士としては優秀そうな大庭だが、梅子を見下した言動をとり彼女の尊厳を奪っている。梅子が離婚を密かに計画し、そのためにも学んでいるが、その野心を見せず腰を低くして夫のふるまいを受け入れているように見せている。

 胸を張っている男性のなかにも前例にいっさいとらわれていない者もいた。轟である。バンカラないでたちで彼は一見居丈高だが、フラットな考え方をしていて、寅子たちに好意的。大庭が梅子をばかにした発言にも不満そうな顔をしていた。

 轟だけが、花岡の女性への態度はほかの男性たちの手前、偽悪的に振る舞っているだけだと見破っていた。同郷で昔から花岡を知っているからこそ、昔はそうじゃなかったのにと思って苛立っていたのだ。女性蔑視発言を「撤回しろ」「撤回しろ」と執拗に責めたのは、女性蔑視発言ももちろんだが、おまえはそういうことを言うやつじゃないという気持ちであったのだなあと感じる。

 轟の良さは、男性・女性と分けて考えず、あくまで人間として尊敬できるかできないかというものさしを持っていることだ。『虎に翼』では男性が一見優秀な人は尊大で、話のわかる人はやや頼りなく、帯に短したすきに流し的な人物が多いが、轟のようにバランスがとれた人物が現れてホッとした。

 直言の贈賄容疑――共亜事件によって、人間の本質があぶりだされそうだ。そのとき、法はどのような力を発揮するのか続きが楽しみでならない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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