『大奥』は歴史に刻まれる作品に 小芝風花、亀梨和也、安田顕、宮舘涼太らが見せた名演
そして5年後、倫子が言った通り、家治のやってきたことが徐々に実を結ぶ。平賀源内(味方良介)がかねてより家治に任されていたさつまいもの栽培方法を編み出し、家治が作った学問所で学んだ若者が定信の行き過ぎた質素倹約を批判するようになったのだ。それは同時に、民衆がかつて批判していた田沼の知性を見直すことに繋がった。最後に家治が託してくれた願いも果たせず、あの日、大奥と命運をともにした田沼は地獄に落ちたのかもしれない。けれど、彼がやってきたことは決して間違いばかりではなかった。
対して、本来の目的も見失い、多くの人を絶望に陥れてきた定信。彼の悪行は猿吉(本多力)がお品に託した手紙によって明らかにされ、自身が田沼に行ったように、倫子によって罷免される。大義のためならば人を殺めることも厭わない定信だが、倫子を愛する気持ちだけは本物だったのだろう。その命を奪うことはできない。そんな愛する倫子から毅然とした態度で「私の夫は何があろうと家治公お一人です」と言われ、定信は肩を落として大奥を去っていった。
そこから月日は流れ、一橋家の養子となり、豊千代と名を改めた貞治郎(鈴木福)は長らく空席だった将軍職に就任。倫子は家治との子を身ごもり、生まれた姫君に家治が望んでいたように万寿と名付けた。その万寿が婚儀の時を迎えた日、出家した倫子は浅光院に促されるように家治との日々に想いを馳せる。浅光院を演じるのは、本シリーズに欠かせない存在であり、今作ではナレーションを務めた浅野ゆう子だ。浅野をはじめ、多くのキャストによって紡がれてきた歴史ある作品『大奥』。小芝風花はその大看板を背負い、感受性豊かな演技で観る人の心を揺さぶった。
悪行には天罰が下るが、善行はいつか必ず実を結ぶ。今作はシンプルだが、倫子たちが生きる時代と同じく、他人を思いやる余裕がないほどに厳しい現代に大事なメッセージを届けた。そのメッセージを説得力あるものにしていたのが、倫子や家治の信念や愛情深さを体現する小芝と亀梨和也、またヒール役に徹した役者陣の存在だ。特に安田顕の血管が切れそうなほどの熱演ぶり、定信の二面性や随所に滲む哀愁を表現した宮舘涼太の演技は素晴らしかった。史実に大胆な脚色を加えたストーリーもさることながら、力ある役者陣の名演を楽しむ作品として、今作は『大奥』の歴史に刻まれることだろう。
■配信情報
木曜劇場『大奥』
TVer、FODにて配信中
出演:小芝風花、亀梨和也、西野七瀬、森川葵、宮舘涼太、栗山千明、安田顕ほか
脚本:大北はるか
企画:安永英樹
プロデュース:和佐野健一、清家優輝、出井龍之介、庄島智之
演出:兼﨑涼介、林徹、二宮崇、柏木宏紀
音楽:桶狭間ありさ
制作協力:ファインエンターテインメント
制作著作:フジテレビジョン、東映
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