『不適切にもほどがある!』“The昭和のおじさん”市郎の変化 時代から学ぶ対話の必要性

 そこで、秋津(磯村勇斗)が使ったマッチングアプリのようなサービスの登場だ。事前にそれぞれの属性が細かく入力されていれば、より自分と感覚の合うタイプの人とマッチングすることができる。つまりは「そんなつもりはなかった」なんて言わなくて済むはず……という理屈なのだけれど、その分類は「自分とは違う」面ばかりに目がいってしまうようにも思えた。より一層、分断を生んでいる可能性もあるのではないか。

 「恋愛って何?」と秋津が迷うのも納得だ。そもそも最初から自分にピッタリ合う属性の人などいるのだろうか。恋愛とは、誰かを好きになることで新しい自分に出会えるところに面白さがあるとも言える。好きな焼き肉の部位もラーメンの種類も、好きな人と一緒に楽しむことで新たに好きなものが増える。自分1人では見えなかった世界が、新たに広がっていく感覚。それはちょうど市郎(阿部サダヲ)の娘・純子(河合優実)が、令和の美容師・ナオキ(岡田将生)と出会ったことで大きく価値観を変えたように。新たに人と出会って、話して、影響を受けて……そうして人は誰かと生きていくことの尊さを知る。それを今っぽくいうのであれば「アップデート」というような気がする。

 気づけば、“The昭和のおじさん”だった市郎も、ずいぶんと令和の時代に順応しているように見えた。つい無意識に出てしまう渚のきつめの言動に対しても「リスペクトが感じられません」と注意したり、「おじいちゃん」には「祖父」という意味と「年寄り」という意味で言っているのかで印象が違うなんて諭したりもしていることにも驚かされた。

 もしかしたら渚が感じていた「昔は良かった」と言う人が多くいるのは、ハラスメントに対する感覚の鈍さではなく、少々油断をしたきつめの言い方をしたとしても、そこにリスペクトや愛情があることがちゃんと伝わっていたことを指しているのではないか。そして、なぜそれが伝わるのかは、その前後にもちゃんと対話があるからだとも。

 実際に、市郎が相変わらず「チョメチョメ」と不適切な発言を繰り返しても、もはや周囲の人は目くじらを立てない。渚は一発退場だったのに、市郎はお咎めなしときた。それはこれまでさんざん思ったことを口にし、周囲と対話してきたことで、市郎がどんな人間なのかをみんなが理解しているから。そのコミュニケーションの先に、際どい言動があったとしても「そんなつもりで言っていない」が届くから。

 “べらべらと話す余計なこと”の中にこそ、属性での分類だけではなく、その人とだけの関係性が築かれる。最小限のコミュニケーションでやり過ごそうという令和では、その一部分だけが大きく印象に残るのも無理はないのかもしれない。でも、それこそアップデートできるのではないだろうか。「昭和がよかった」「令和のほうがいい」と分類するのではなく、相手に配慮する姿勢を保ったまま、もっと打ち解け合っていく時代に……。次週はいよいよ最終回。市郎を待ち受ける運命と共に、この放送をきっかけに何かがアップデートされていくような予感がして非常に楽しみだ。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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