『ブギウギ』趣里が上手いからこそ感じる物足りなさ スズ子と“観客”の関係性を考える

 「待ってました!」の「買物ブギ」。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第22週では、スズ子(趣里)がお買い物で混乱したことをヒントにして、羽鳥(草彅剛)がコミックソングのような「買物ブギ」を作りあげた。

 史実では羽鳥のモデルの服部良一が、大阪法善寺横丁の寄席で聞いた上方落語の『無い物買い』をヒントにしたそうだ。服部の自伝によれば、“レッスン中に笠置シヅ子が「ヤヤコシ、ヤヤコシ」と言い出したのを、そのまま歌詞に練り込んだ“とある。

 ドラマではうまいこと、スズ子のもとに家政婦の大野晶子(木野花)が来て、家庭生活が充実してきたので、ほのぼのしたお買い物描写を取り入れ、日常生活から庶民に共感され愛されるヒット曲が生まれたことに仕立てたようだ。

 バックステージものを好む人は残念ながら世間に多くはいないので、できるだけ一般的な、身近な話にしようとする努力を感じる。が、果たしてそれが最適解なのであろうか。

 朝ドラで何かを成し遂げた偉人をモデルにした場合、たいてい前半では主人公が目標に向かっていくので盛り上がる。それが、中盤を過ぎたあたりで、仕事を成し遂げて、いったんピークを迎える。結婚し、子育て期に入り、ホームドラマの色が濃くなると、若干失速した印象になるのが常だ。そこをどう回避するか、毎度の課題であろう。

 朝ドラは基本はホームドラマだが、視聴者は“『サザエさん』的日常”よりも、ドラマティックなものを求めているように思う。朝の支度をしながら、代わり映えのしない日常をひととき忘れて晴れ晴れとしたいのだから、子育てパートになって、子育てがうまくいかないというような日常ストーリーはふだん味わっている。なんならそのリアリティは視聴者のほうが詳しいわけで、そこをさくっと描いたようなものは観たいとはあまり思わないのではないだろうか。お花の障子くらいのレベルのものがいくつもあれば、感心もするのだろうけれど。

 だからといって、母になったらヒロインでなくなるのではいけない。母だってヒロインなのだ、と三世代ヒロインとして、問題をうまく回避したのが『あまちゃん』であり『カムカムエヴリバディ』である。とはいえ、全部が全部そうするわけにもいかないので、画期的な母と子の描き方の登場が待ち望まれる。

 『ブギウギ』では、第22週の時点で愛子(小野美音)はまだ2歳で、その頃の育児の大変さは第21週で描ききって、代わりに登場したのは、山下(近藤芳正)の甥の柴本タケシ(三浦獠太)である。

 タケシは、大学に入ったが中退し、その後、働くも長続きせず、夢中になれるものが見つからずにいた。山下は、トミ(小雪)が死んだことで、愛助(水上恒司)と二代に渡って尽くしてきた自分の役目が終わったことを悟り引退するにあたり、この頼りない甥をスズ子に預けることにしたのだ。

 羽鳥、タナケン(生瀬勝久)、茨田りつ子(菊地凛子)、山下……たくさんの人生の先輩たちに助けてもらったスズ子もいまや、娘の愛子のみならず、自分より年下の若者たちを引っ張っていく世代になっていた。

 音楽に興味がなく、やりがいを見い出せずにいるタケシに、スズ子は、音楽の楽しさを知らせる。それは言葉ではなく、ステージでのパフォーマンスで見せつけることだった。

 おりしも、タナケンが事故で足を負傷し、もう今までのようなパフォーマンスができなくなってしまう。タナケンは自分の芸人としての寿命の終わりを恐れる一方で、なにくそとまだまだやるのだと闘志を燃やす。なにが彼をそこまで掻き立てるのか。ステージに立ったときに見る、観客席にひしめいた人々の笑顔、笑い声はたまらないものだ。自分の一挙一投足に、観客がどっと反応する。それを感じ続けたくてステージに立つ。だがちょっとでも自分の感覚が緩めば、客はそっぽを向く。なんとなくステージにあがったらなんとなく人気になってそのままやれる人なんて滅多にいない。たとえはじめはそうだったとしても、観客と切り結んでいくうちに真剣になっていくはずなのだ。

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