桐谷健太らが誘う“予想外の結末” 視点によって印象が変わる『坂の上の赤い屋根』の奥深さ

 『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』(WOWOW)は、新人小説家と編集者が18年前に起こった「女子高生両親刺殺事件」をモチーフにした小説を書くために取材を重ねる中で、自身の中にある暗い感情と直面することになるダークミステリーだ。

 恋人の高校生・青田彩也子(工藤美桜)を洗脳して両親を殺害させた死刑確定囚・大渕秀行(橋本良亮)の自叙伝の出版に関わったことのある轟書房の副編集長・橋本涼(桐谷健太)の元に、新人小説家・小椋沙奈(倉科カナ)が、大渕の事件をモチーフにした小説を書いて持ち込んだことから物語は始まる。沙奈の小説を週刊トドロキで連載するため、二人は改めて事件の関係者に取材を行うのだが、沙奈は大渕の自叙伝の中に不自然な部分があることに気付く。

 原作はイヤミスの名手として知られる真梨幸子のミステリー小説『坂の上の赤い屋根』(徳間文庫)。

 劇中では事件を取材する小説家と編集者の視点を通して、18年前に「女子高生両親刺殺事件」を起こした大渕秀行と青田彩也子の半生が語られる。同時に細かく描かれるのが、週刊誌編集部の権力構造と競争原理。売れない小説家の沙奈は、編集長の笠原智子(渡辺真紀子)を頂点とする編集部の無茶振りに答えながらなんとか小説を型にしていく姿が描かれる。また、母親との関係がうまくいっていない沙奈は、辛い現実から抜け出すために小説を書くことに全身全霊を注ぎ込むのだが、その姿は、殺人事件の描写と同じくらいヒリヒリするものがある。

 この編集部と新人小説家の間にある格差の描き方を筆頭に、表には見えにくいが日本社会には圧倒的な格差が広がっているという描写が、本作には形を変えて何度も登場するのだが、その格差は繰り返し登場する殺害場面と同じくらい残酷なものに感じる。

 橋本と沙奈が取材していく中で出会う大渕や彩世子の関係者たちの物語にも同じことが言え、殺人事件の謎を追うミステリーだと思って観ていると、事件と無関係に思える各登場人物の生活描写や日常で感じている葛藤をとても濃密に描いていることが気になってくる。中でも強烈なインパクトを残すのが、週刊トドロキの元編集長だった市川聖子(斉藤由貴)だ。市川は大渕の元愛人で、大渕と付き合っていた時のことを赤裸々に話すのだが、彼女が本格的に動き出す第2話冒頭から、物語の空気が大きく切り替わる。

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