『春になったら』岡光寛子プロデューサーに聞く舞台裏 王道ジャンルで新しいチャレンジを

作り手として心がけているのは「独自性」と「時代性」

ーー『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)のようなSFもそうですが、『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系)や『姉ちゃんの恋人』は現実の中にファンタジーを感じる作風でした。ドラマに現実を求める人もいますし、そうではない人もいると思いますが、フィクションとリアリティのバランスはどのように考えていますか?

岡光:ちょっとだけ背伸びするじゃないですけど、やっぱりドラマなので、こうだったらいいなという世界も描きたいと思っていて。人と人がこういう関係だったらいいよねとか、こういう世界だったらいいねというのを描けるのもドラマの特権だと思います。理想が語られていいのがフィクションの世界かなと。その一方で、こんなに簡単に問題が解決されるならフィクションなんていらないよというふうに視聴者が離れてしまうのも嫌なので、フィクションだからこそ辿り着ける場所を見つけることが大切だなと思い、そのバランス感覚は意識しています。

ーー先ほど挙げた作品のヒロインは、吉岡里帆さんや波瑠さん、有村架純さん、今作の奈緒さんもそうですが、等身大の女性を演じられています。他の作品と違って、岡光さんのプロデュースされた作品では、演じる側の素の部分がより投影されているように感じます。キャストの皆さんとどんなお話をされていますか?

岡光:人間性は役柄ににじみ出ると思うので、それぞれ皆さん違う個性や魅力がある中で、原作ものでもオリジナルでも、彼女たちが持っている強みや良さをなるべく引き出せるように、その上で無理なく演じられるキャラクターにするように心がけています。同じ原作のキャラクターでも、どなたが演じられるかで全然違うキャラクターになりますからね。その俳優さんの人間力を尊重して、魅力的に輝くためにどうしたらいいかを第一に考え、脚本の段階でも、撮影現場でも、「どんなことを感じたか」「やりにくいことはないか」など密にコミュニケーションを取りながら制作するようにしています。

ーー配信プラットフォームが普及し、ドラマのコンテンツ数も増えています。作品を埋没させないために作り手として心がけていることはありますか?

岡光:圧倒的な「独自性」と「時代性」だと思います。特定のコンテンツにチャンネルを合わせたり、再生ボタンを押すためには、何か絶対的なきっかけがなければいけなくて、このドラマの何が他の作品と違い、何に独自性があって、時代をどのようにとらえているか、今なぜ制作するのかを大事にしながらドラマを作っています。弊社の上司は「とにかく話題になるものを作れ、そのためには何か仕掛けなさい。真似事や既視感のあることでは何も生まれない」とよく言います。「こういうジャンルだから当たる」とか「今これが流行っている」という嗅覚は絶対的に必要ですが、そこばかりを追いかけてしまうとどこかで限界が来てしまい、同じようなドラマが乱立することになると思います。カンテレは準キー局ですし、個性を打ち出していかないと生き残れないという危機感もあるので、そこは特に意識していますね。

ーーその姿勢がホームドラマの今作でも新しい試みにつながるんですね。

岡光:今作はホームドラマというテレビドラマの原点に立ち返ろうと思った企画です。日本の連ドラは3カ月で1クールという独自の文化ですが、限られた3カ月の中で視聴者と登場人物が同じ時間軸を生きることになります。1週間に1度登場人物たちに会える、毎週同じ時間に放送される意味をドラマの特性として意義づけられたらと思っています。

どんなジャンルの作品も「人間」を描くことに変わりはない

ーー『春になったら』は月曜22時枠ですが、岡光さんが手がけられた直近の2作品『ウソ婚』(カンテレ・フジテレビ系)と『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)は新設の火曜23時枠でした。放送時間も1時間と30分で倍くらい違いますが、作り手として意識していることはありますか?

岡光:30分ってものすごく短くて、1話実質24分の中で起承転結をつけながら、全12話観てもらえる縦軸も作らなくてはいけないので、凝縮して描かなくてはいけない分、余計なものが省かれて、視聴者にとって観やすい構成になる良さもあります。一方で1時間ものは尺が長い分、登場キャラクターを一人ひとり丁寧に描けますが、間延びして視聴者を飽きさせないように抑揚をつけながら、その回の満足感と全話通して観てもらえるだけの引っ張りを作れるかを意識しています。あとは月曜22時と火曜23時では視聴者層も変わってきますので、月曜22時はなるべく家族で観られるGP帯の良さや安定感を担保しつつ、火曜23時は少し遅い時間なのでもう少し尖ったチャレンジングな作品も制作しています。

ーー岡光さんは『ウソ婚』と『時をかけるな、恋人たち』、そして『春になったら』と3期連続でプロデューサーを務められていますが、それってなかなかないことですよね。

岡光:いろんなタイミングが重なって連投することになりましたが、『ウソ婚』はラブコメディ、『時をかけるな、恋人たち』は時間SF、『春になったら』はホームドラマと3本全然違うテーマでドラマを作ることができたのは、可能性を広げてくれる点で貴重な経験でした。やったことのないジャンルも純粋に楽しむことができましたし、結果どんなジャンルの作品をやっても「人間」を描くことに変わりはなく、キャストスタッフとのうれしい再会や、新しい出会いもたくさんあり、毎日が刺激的で、全てのドラマに思い入れがあります。

ーーこれまでいろいろな作品を手がけこられたと思いますが、今後、取り組んでみたいジャンルや作品はありますか?

岡光:私は広島出身の被爆三世で、幼少期から祖父や被爆者の方からお話を聞いてきたこともあり、原爆をテーマにしたドラマを作りたいという思いがずっとあります。明石家さんまさん主演の『さとうきび畑の歌』(TBS系)というドラマを中学生の時に観て感銘を受け、その時の映像がトラウマのようにずっと心の中に残っています。予算の問題もあって、時代ものや戦争ものはテレビドラマで作りづらい環境になっていますが、無料で誰でも観ることのできるテレビドラマだからこそ、戦争を知らない若い世代にエンタメとして届けたいと思っています。取り組んでみたいジャンルは、学園ものですね。カンテレは『GTO』や『幽かな彼女』、『僕たちがやりました』など時代ごとにいろいろな学園ものを作ってきているので、令和の時代の新しい学園ものを作れたらと思っています。

ーー最後に『春になったら』を観ている視聴者へメッセージをお願いします。

岡光:最終回である3月25日は、瞳の誕生日であり、結婚式をあげる予定の日でもあります。3カ月間、父娘がたどる軌跡を一緒に同じ時間を過ごしながら、ラストはどうなるのか楽しみにしていただけたらと思いますし、ぜひドラマをご覧になった後に、ご家族や大切な人と話すキッカケになるとうれしいです。群像劇なので、周りの人々がどのように椎名親子と関わり、変わっていくかにも注目してご覧いただければ幸いです。

■放送情報
『春になったら』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:奈緒、木梨憲武、深澤辰哉、見上愛、西垣匠、影山優佳、矢柴俊博、光石研、橋本マナミ、筒井真理子、小林聡美、濱田岳
脚本:福田靖
監督:松本佳奈、穐山茉由
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
音楽プロデューサー:福島節
主題歌:福山雅治「ひとみ」(Amuse Inc. / Polydor Records)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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