橋本愛「映画の中だけで許されることをしたかった」 “念願の企画”で見えた新たな景色

“新しい風”を感じた撮影現場

ーー沙苗の行動原理がなかなか理解できないところもありましたが、橋本さん自身はどうでしたか?

橋本:もちろん全ては理解できないんですが、要所要所で「あ、それわかる」ということがいくつかありました。それは共感のような気もするけれど、たぶん違うんだろうなという感覚もあって、なかなか説明するのは難しいのですが、最初に脚本を読んだときに、彼女の愛がとても遠いものに思えたんです。沙苗にとっての愛は愛ではないのではないか、彼女はただ勘違いしているだけなのではないか、と。沙苗の愛をある意味、裁いてしまっていた。それくらい彼女との距離が遠かったのですが、頑張って近づいていって、やっと同じ目線に立てたと思えたときに、景色がガラッと変わったんです。そのときに、「むしろこれが本当の愛だ」と思えたし、逆に「この愛をわからないままよく生きられるな」とさえ思いました。社会や世間からは狂気とみなされるけど、自分自身はずっと正気だった。逆に、正気とされている周りの方が狂っているんじゃないかと、視線が逆転した瞬間があったんです。それは私自身、いろんな役を演じてきた中で、初めての経験でした。

ーー橋本さんが沙苗のことを深いところまで理解していたからこその説得力があったと思います。夫役の仲野太賀さんとは過去にドラマなどでも共演されていますが、やはり太賀さんだからこその安心感はありましたか?

橋本:安心感はものすごくありました。15歳のときに出会って、気心が知れた方なので。夫婦役は初めてだったのですが、彼に夫役を演じてもらえたのは大きかったです。個人的にも本当に尊敬している俳優さんでもあるので、すごく助けていただきました。

ーー長い付き合いだからこその信頼感があったわけですね。

橋本:あと、そういう関係性でもあるので、どういうお芝居をするのかがちょっと想像できるところもあったんです。だから全く怖くなかったんですよね。全く初めましての方が夫役だったら、まずは相手を知るところからスタートするので、そういう意味でも安心感がありました。

ーーあと、スタッフ、キャスト含めて若い方が多く集まった作品ですよね。

橋本:そうなんです。私自身も新しい風を感じました。現場で交わす言葉も、どこか同じものを見てきたという背景が感じられましたし、たとえ言葉を交わさずとも、フィーリングが近くて、安心できるところがありました。とても居心地が良くて、みんなともすごく仲が良くなるほど、とても楽しい現場でした。

ーー前回のインタビューでは映画業界におけるハラスメントの問題などについても語っていただきました。今回の現場では、主演という立場として、橋本さんが率先して現場の雰囲気を作っていった部分もあったのですか?

橋本:自分に何かできたかと言われると、たぶん何もできていなかったと思います。ただ、今回の作品はそういう問題意識を持ってくれている方ばかりでした。撮影現場では、プロデューサーの山本(晃久)さんが、ほぼ毎食ご飯を手作りしてくださったんです。温かいご飯を毎食食べられる現場なんて初めてでしたし、その場で作ってくださることが本当に尊くて。心も体も温まる環境でした。どんなに疲れていても、ギリギリの局面があっても、そのおかげでゼロに戻れる感覚があったので、本当に力になりました。そういうことを考えて、行動で示してくださることがすごく嬉しかったです。全ての現場でこうなればいいなと思えるような、とても素敵な経験でした。

■公開情報
『熱のあとに』
新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて公開中
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
プロデューサー:山本晃久
製作:ねこじゃらし、ビターズ・エンド、日月舎
制作プロダクション:日月舎
配給:ビターズ・エンド
2024/日本/カラー/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/DCP/127分/英題:After the Fever
©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha
公式サイト:https://after-the-fever.com/

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