『幽☆遊☆白書』戸愚呂兄弟はなぜ完全再現できた? “実写化”を支えた映像技術

VFXの迫力に見劣りしない肉弾戦

 だが、本作の魅力はそんなVFXだけではない。「実を写した」パートがそれに比類する迫力と説得力で描かれているからこそ、高い魅力を発揮している。

 具体的には肉弾戦だ。特に、後半はずっと戦っているという印象を与えるほどに格闘シーンに時間を割いている。ここでも当然CGの助力は得ているが、かなりの部分を実際に撮影しているのも確かだ。


 アクション監督を担当したのは、『HiGH&LOW』シリーズで知られる大内貴仁。彼とスタントチームが構築した生身の痛みを感じさせるアクションの数々が、本作に徹底したリアリティを与えている。

 マンガの映画化の成功例として、国内でよく取り上げられるのは『るろうに剣心』だ。大内は同作にもスタントコーディネーターとして参加しているが、この作品はなぜ実写化の成功例となったのかを考えると興味深い。『るろうに剣心』は、マンガやアニメにはできない、「実写ならでは」の表現を追求した作品だと筆者は『映像表現革命時代の映画論』に書いた。同作でアクション監督を務めた谷垣健治の言葉が端的にそれを示している。谷垣は、アクションを2種類あると語る。ひとつは「息がピッタリ」なものと、あえて息をそろえない「生っぽい」もので、『るろうに剣心』は後者のアクションを狙い、実際にカメラの前で偶然起きたことを記録したような効果を生んで「作り物っぽさ」を排除できたのだという。(※4)

 『幽☆遊☆白書』のアクションも基本的にはこの「生っぽい」アクション路線だと言えるだろう。相手がどう動くのか、時に不揃いで生々しいアクションが展開する。自動車や鉄パイプなど、撮影場所にある小道具をふんだんに使用して戦いに活かすアクションを徹底する姿勢が実在感を高めている。

 「実写」は、英語で「Live Action」という。生のアクションこそが実写の醍醐味である。実写ならではとは、突き詰めるとカメラの目の前で何かを起こすこと以外にない。本作はそこに手抜かりがなく、ハイレベルなVFX映像に見劣りしていない。

 『幽☆遊☆白書』の成功は、日本のアクションチームによる実写ならではのアクションの醍醐味と、Netflixの予算に支援されたハイクオリティなアニメーションがひとつに溶け合った結果なのだ。単純に実写ではないし、単純にアニメーションでもない、必要に応じてその両方を的確に差配し、「映像」として結実させることで生まれた作品なのだ。

参照

※1. https://branc.jp/article/2023/07/21/640.html
※2. https://jp.pronews.com/column/202312191451455388.html
※3. https://jp.pronews.com/column/202206291200303917.html
※4. 『映像表現革命時代の映画論』P103~P104

■配信情報
Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』
Netflixにて配信中
出演:北村匠海、志尊淳、本郷奏多、上杉柊平、白石聖、古川琴音、見上愛、清水尋也、町田啓太、梶芽衣子、滝藤賢一、稲垣吾郎、綾野剛
原作:冨樫義博『幽☆遊☆白書』(ジャンプ・コミックス刊)
監督:月川翔
脚本:三嶋龍朗
VFXスーパーバイザー:坂口亮(Scanline VFX)
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:森井輝
制作プロダクション:ROBOT
企画・製作:Netflix

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