『フェルマーの料理』海と岳がたどり着いた“真理の扉”の答え 孫六が与えた最後のチャンス

 「お前のこと信じても、また裏切られるだけだからさ」という孫六の言葉は、今の仲間達の心境そのものだったに違いない。

「渋谷先生、ようこそいらっしゃいました」

 そしていよいよ、運命の日がやってくる。作ったのは4品のコース料理。「今日のコース料理は、一皿残らず真理の扉を開くようなものを作ってくれるんだよな?」「もし一皿でもそうでないなら、もう2度と料理はするな」と渋谷の厳しい言葉が「K」に響き渡る。しかし、残酷なことにこのタイミングで海の体調に異変が訪れる。苦しそうに倒れ込みながらも、「一緒に、楽しく料理がやりたいんだろ? 俺にもやらせろ」と厨房に立とうとする海の姿には、観ているこちらが苦しくなった。

 それでも、レストラン「K」は終わらない。「私たちがいるべき場所は、客席じゃなくて、ここ。私たちも一緒にやる」と言い切ったのは、まさかの蘭菜だった。その裏には「孫(まご)の連絡があったから」という理由が明らかになるのだが、この“孫六が岳のために頭を下げた”というのも、最終回らしい感動的なポイントである。今でこそ、岳と孫六の友情は視聴者にとっても周知の事実だが、岳の皿洗い時代に最も彼を嫌っていたのは孫六と言っても過言ではない。そんな孫六が、絆で結ばれた仲間として岳に最後のチャンスを与えたのは感慨深いものがある。

 渋谷に出されたコース料理は、厨房のシェフたちそれぞれの特技を活かした料理だった。しかし、蘭菜や孫六をはじめとする、みんなのアイデアが詰まった料理を口にしても、渋谷は何も言わない。そんなコースのメインを飾ったのが、岳の「ハンバーグ」だ。岳は「このハンバーグは父親との思い出なんです。あるとき、低音でじっくり焼くつもりが、焦がして……」とレシピの着想を話しだす。このハンバーグの最大のポイントは、よくこねること。仕上げのアロゼとピューレは布袋のアイデアから着想を得ていると知った渋谷は「どうして他人のアイデアを使った?」と首を捻る。

 そしてここで海から、『フェルマーの料理』最大の名言とも言える“真理の扉”の答えが出る。

 「1人でたどり着けないところに、みんなと一緒なら辿り着けるかもしれないと気がついたとき、真理の扉が開いた気がしました」「渋谷先生に食べてもらったのは、この店の全員のアイデアと想いが詰まった料理です」

 数学者・フェルマーのような孤高の天才のみが、真理の扉を開けられるわけではない。海にそのヒントを与えたのは紛れもなく、岳と「K」のメンバーだった。思えば岳は今まで、料理の数式はもちろんだが、食べる人の思い出や嗜好に沿った、相手目線の“究極の料理”を提供してきたように思う。今回はずっと孤高に料理と向き合ってきた、渋谷に向けてフルコースを振る舞ったわけだが、図らずとも「ハンバーグ」もまた、渋谷にとっては海との“父子の絆”を感じさせる一品だったわけだ。

 自ら厨房に立ち、海にとっての“ハンバーグ”を作った渋谷は「限界なんていうものは、この世に存在しない。料理にも限界はないし、真理なんていうものも存在しない。お前たちが作ったハンバーグはよかった」と言葉をこぼす。そんな渋谷の想いに答えるように「俺に人生くれて、ありがとうございました」と涙を浮かべた志尊の演技には、渋谷の息子であり、料理人でもある“朝倉海”の全てが詰まっているように見えた。まさにフィナーレに素晴らしい、志尊なりの「海という人物が抱えてきたもの」への解釈が託された渾身の演技だったのではないか。

 その後、それぞれの道へ歩きだすシェフたち。最後のモノローグでは、海と岳がとある店の厨房で料理をしている様子が描かれていた。海の病気の件がその後どうなったのかは、物語の顛末からはっきりとはわからない。それでも、岳と海はこの先も次の扉を探して、料理の道を歩き続けていくのだろう。“2人が見つけた完璧な答え”を胸に、まだ見ぬ料理へと胸を躍らせながら。病魔さえも、2人の挑戦を止めることはできない。

■配信情報
金曜ドラマ『フェルマーの料理』
U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:高橋文哉、志尊淳、小芝風花、板垣李光人、白石聖、細田善彦、久保田紗友、及川光博、宮澤エマ、細田佳央太、宇梶剛士、高橋光臣、仲村トオル
原作:小林有吾『フェルマーの料理』(講談社『月刊少年マガジン』連載)
脚本:渡辺雄介、三浦希紗
プロデューサー:中西真央
演出:石井康晴、平野俊一、大内舞子
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fermat_tbs2023/
公式X(旧Twitter):@Fermat_tbs
公式Instagram:fermat_tbs
公式TikTok:@fermat_tbs

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