『下剋上球児』はなぜ“失敗”した大人たちを描いたのか? 無免許教師にした設定の妙味

 あなたは大きな失敗をしたことがないだろうか。罪を償わせてほしいと誰かにひたすら頭を下げ続けたことはないだろうか。

 異色の高校野球ドラマ、鈴木亮平主演のTBS日曜劇場『下剋上球児』が12月17日に最終回を迎える。

 廃部寸前だった弱小高校野球部が甲子園出場という“下剋上”を目指す物語で、原案は菊地高弘によるノンフィクション。第9話ではWBCのメキシコ戦にオマージュを捧げるかのような試合展開でライバル校を撃破した。なお、ライバル校エースのモデルは、中日ドラゴンズの岡林勇希選手である。

 『下剋上球児』の何が異色だったかというと、鈴木亮平演じる主人公・南雲脩司の設定に尽きる。越山高校で教鞭をとっていた南雲だったが、実は教員免許を持っていなかったと第2話で告白したのだ。しかも、やむを得ない事情ではなく、大学の卒業単位をうっかり取り忘れて、挙句の果てに教員免許を偽造したというのだから驚きだ。むろん、原案にはないドラマオリジナルの設定である。

 南雲の意外すぎる告白に山住先生(黒木華)の目は泳ぎ、視聴者はざわついた。SNSでは非難の声が相次ぎ、それをネットメディアがまとめて記事にした。まるで本当に不正をしていた南雲を叩くかのような勢いだった。ドラマの登場人物が不正をしたり、まわりの足を引っ張ったりすると、叩かれるようになったのはいつ頃からだろうか。

 従来の似たようなストーリーのドラマならば、主人公のクリーンな熱血教師が弱小野球部だったり、ダメ生徒が集まっているラグビー部だったりを率いて、時には泥臭く模範を示し、時には熱く叱咤したりしながら、正しく導いていくのがパターンだった。『スクール☆ウォーズ』(TBS系)や『ROOKIES』(TBS系)などがその代表例である。

 だが、『下剋上球児』はそうはしなかった。南雲は優秀かつ誠実な教師で、野球部監督としても有能だったが、うっかり大きな過ちを犯した人物として描かれることになった。それが嫌だったという視聴者は多かったようだが、筆者はこの設定に非常に心惹かれた。

 心打たれたのは第5話だ。幼い頃、両親に捨てられたという過去を持つ南雲だったが、寿という教師(渋川清彦)が親代わりになって育ててくれた。南雲が教師を志したのは、寿先生の存在が大きい。寿先生の優しい微笑みを思い出すだけで涙腺がゆるむ。南雲がパパ活をしていた女子生徒を指導して立ち直らせる「奇跡」も印象的だった。どちらも社会から取りこぼされつつある者、踏み外してしまいそうな者を懸命に救おうとする話だから心に残るのだろう。

 自首した南雲は生徒たちの嘆願もあってか不起訴処分となり、その後、野球部監督として復帰する。ちなみに無免許教師の給与の返還や、在校生・卒業生の単位が無効になるかどうかについては、前者に関しては返還を求めないケースが多く、後者については適切な教育が行われていることが認められれば校長の判断に委ねられ、卒業生はほぼ単位が認められるという。(※)

 第7話では、南雲が校長の丹羽(小泉孝太郎)と支援者の犬塚(小日向文世)の前で頭を下げるが、このときの二人を説得する元教諭・横田(生瀬勝久)の言葉が良かった。

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