黒崎煌代、『ブギウギ』六郎として生き抜いて 「順調な時にこそ謙虚でいなきゃいけない」

 2022年にレプロエンタテインメント30周年企画「主役オーディション」で約5千人の中から見事合格を勝ち取り、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』にてヒロイン・スズ子(趣里)の弟・六郎役で鮮烈なデビューを飾った黒崎煌代。六郎はマイペースで、無邪気。だけど、実は誰よりも物事を冷静に捉えていて、みんなに気づきを与える存在だ。

 そんな六郎を演じきった黒崎に、視聴者からは「デビュー作とは思えない」「すごい俳優が現れた」という絶賛の声が相次いでいる。第10週では六郎の戦死の知らせが届くも、ステージで泣き崩れたスズ子の前に幻となって現れた。黒崎は六郎として、あの場にどのような気持ちで立っていたのか。映画『さよなら ほやマン』の撮影で訪れた網地島でのエピソードや、俳優としての今後の目標についても聞いた。(苫とり子)【インタビューの最後にはチェキプレゼントあり】

黒崎煌代が届けたかった、みんなのアイドル・六郎像

――黒崎さんが演じる六郎にSNSでは絶賛の声が挙がっていますが、ご本人の実感としてはいかがですか?

黒崎煌代(以下、黒崎):実感は正直、まだ湧かないです。ただ、好意的な意見が多く、私としても最初は嬉しかったんですが、ありがたいことに褒められてしかいないので不安にもなりました。こういう時だからこそ、地に足をしっかりつけて頑張らなきゃいけないなと思っています。

――オーディションを受けた時は手応えみたいなものはあったのでしょうか。

黒崎:正直、手応えはなかったですね。というのも、オーディションでは、スタッフの方々と映画の話題で意気投合して、ひたすらお喋りしていた印象しかないんです。だから、連絡を受けた時は信じられない気持ちと、「またあのスタッフの方々に会えるんだ!」という喜びが大きかったですね。本当に楽しかったので。

――そこから撮影までの期間、何か準備されたことがあれば教えてください。

黒崎:笠置シヅ子さんをモデルにした作品なので、笠置さんの人生について調べました。弟の亀井八郎さんに関しての資料は少なくて、スズ子が劇中で歌う「大空の弟」も最近になって楽譜が見つかったらしいですね。それでもできる限り調べて、お芝居に活かせるように準備しました。

――シヅ子さんの人生を知り、その上で台本を読まれた時はどのような感想を抱きましたか?

黒崎:シヅ子さんは、私だったら耐えられないような、いわゆる波乱万丈な人生を歩まれた方。でもドラマになったらきっと面白いだろうなと思いましたし、台本を開いたら案の定、面白くて。もともと脚本を手がけた足立紳さんの作品が好きだったのもあり、ワクワクが止まりませんでした。そこに書かれていることは全て足立さんからのメッセージじゃないですか。だから六郎のセリフが出てくるたびに嬉しかったです。足立さんとは実際に2回お会いして、そこで六郎への思いを伺ったり、私に対してもいろいろと質問してくださったり。すごく穏やかな方で、憧れの人でもあるので幸せな時間でした。

――撮影現場はベテラン揃いで緊張されたかと思いますが、同時に六郎の断髪式なんかは「はな湯」のメンバーが少しずつバリカンを入れたりと、とても楽しそうな雰囲気が伝わってきました。

黒崎:私の場合、撮影は「はな湯」でのシーンがほとんどだったんですが、とにかく楽しかったです! キヨさん役の三谷(昌登)さんが前室はもちろん、セットに入ってからもずっと場を回してくれて。なだぎ武さんをはじめ、乗っかれちゃうメンバーばかりなので本当に賑やかなんですよね(笑)。柳葉(敏郎)さんも「お前ら静かにせぇ」と言いつつ、ご本人も楽しそうにされていたり、ピリついた感じは一切なかったです。

――ドラマのままの雰囲気が現場にもあったんですね。その中で、印象に残ったエピソードや言葉はありますか?

黒崎:朝ドラは月曜日にリハーサルがあって火曜から金曜が撮影本番なんですが、アホのおっちゃん役の岡部(たかし)さんから「リハーサルの時から本気で臨め」と教わりました。リハーサルだから、基本的に台本は覚えていなくてもいいんですよね。だけど、しっかり覚えて万全な状態で臨むことで他の人よりも一歩先に行けると。岡部さんにはよくご飯に連れて行っていただきましたし、他の方からもいろんなエピソードを伺ったりと、本当にありがたい環境でした。

――六郎を演じる上で心がけたこと、またご自身と重なる部分などはありましたか?

黒崎:六郎はまっすぐで曇りも濁りもない心を持っている男なので、自分と重なる部分を引き伸ばして、私のできるピュアの最大限を表現しました。私自身、映画が趣味でオタクな部分もあるので、亀オタクな六郎の一つのことを極めたくなる気持ちはすごくよく分かります。実は私のおじいちゃんが昔飼っていたこともあって、亀は身近な存在でもあったので撮影中はずっと4匹の亀たちを触ったり見つめたりしていました。甲羅の柄に違いがあったり、活発な子とそうじゃない子がいたりして。長いこと一緒にいると、意外に見分けがつきます。

――亀を含め、花田家の家族の団欒のシーンがとても印象的でした。あの垣根のない雰囲気はどのように生み出されたものなのでしょうか?

黒崎:それはやはり前室でのコミュニケーションに尽きます。「こんなに大切なんだ!」と思いました。いつもリードしてくださるのは水川あさみさん。水川さんの前室での立ち居振る舞いを見ているだけで、すっかりファンになってしまいました。会話を作ってくださるので、私はそこに乗っかるだけでよくて。まさしく“お母ちゃん”でしたね。

――趣里さんの座長力についてはいかがですか?

黒崎:趣里さんは“気遣いの塊”みたいな方です。現場でも「こんなに周りに気を遣ってしんどくならないのかな?」と思うくらいにキャスト、スタッフ全員に気を配って、「撮影が大変な時は頑張ろうね!」とみんなを盛り上げてくれました。お芝居に加えて、今回は歌や踊りの練習もあるのにタフすぎます。「朝ドラのヒロインとはこういうことか!」と思いました。カッコいいですし、憧れます。

――改めて今、六郎の人生を振り返って感じることを教えてください。

黒崎:六郎は劇中ではバカとかアホとかって言われがちなんですが、特にズバッと真理を突くんですよね。それは六郎がピュアだからなんですが、やはり彼がそういうふうにいられるのは優しく全てを受け入れてくれる家族や「はな湯」のみんながいたからこそだと思うんです。「ほんまはみんなあんたみたいに素直で正直な人間になりたい思ってんねんで」というお母ちゃんの台詞がありましたけど、実際はなかなかなれないじゃないですか。だから一種のアイドル的な存在として、六郎のかわいさがどうにか伝わればいいなと思いながら演じてきました。もしみなさんの心にお母ちゃんの台詞が少しでも響いてくださるのなら、私の思うアイドル・六郎像は伝わったのかなと思います。

――そんな六郎にとって、スズ子はどんな存在だったのでしょう?

黒崎:それこそ、憧れですよね。カッコいいじゃないですか。意外と感情が剥き出しな部分もあって、失恋でわんわん泣いたりもする。ある意味、六郎がピュアなのは姉やんの影響も受けてますよね。似た者姉弟であり、六郎にとって姉やんは尊敬する人だったんじゃないかなと思います。

――第49話では、ステージで「大空の弟」を歌った後に泣き崩れたスズ子の前に六郎が幻となって現れます。その時の六郎の表情がいつも以上に凛々しく、スズ子の背中を押しているように感じられました。

黒崎:まさしく自分がきっかけでダメになりそうな姉やんを支えるような表情を意識したので、伝わっていたのなら嬉しいです。スズ子が歌っているところから裏でスタンバイしていたので、私も泣きそうだったんですが、どうにか耐えて微笑みました。このシーンで私はクランクアップだったので、エキストラのみなさんもいる中で花束を受け取り、盛大にお祝いしてもらって嬉しかったですね。もちろん寂しい気持ちもありましたし、何より姉やんの今後の体調が心配でした。私がいたからといって、何かができるわけじゃないんですけど(笑)。

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