『ミステリと言う勿れ』“広島編”が映画で描かれた理由 久能整を作り上げた幼少期の経験

 劇場版の大事なテーマとして挙げられるのが、“呪い”からの解放ではないだろうか。本作で描かれるのは、いわば呪いを次の世代に引き継ごうとする者と、断ち切ろうとする者の対立である。それが顕著に表れているのが、整と汐路、そして汐路の初恋の相手・朝晴(松下洸平)による終盤のシーンだ。ここでは汐路のセメントに呪いとなる言葉を落とす朝晴、その呪いをまともに食らって慟哭する汐路、彼女のセメントが乾ききる前に朝晴の穴を埋めようと努める整……という三項関係になっている。それぞれの役を全うする三者三様の名演に息を呑むが、ここでは特にいつになく焦燥感に駆られた様子で、汐路の目を見ながら言葉を尽くす整の姿に注目したい。それほど必死になるのは、彼自身がかつてセメントに多くのものを落とされた子どもであったからではないか。

 また、同時にそれはドラマで教師に向いていないと言われた整に恩師の天達(鈴木浩介)が放った「自分に苦手なものがあると認識している教師は、生徒にも苦手なものがあると理解できる」という台詞を裏付けるものだった。自分が嫌だったこと、苦手だったこと、苦しんだことが整にはたくさんあって、だからこそ子どもたちをそれらから守る行動を咄嗟に取れる彼の教師としての資質みたいなものを感じた場面だ。さらに、ラストで整が汐路にカウンセリングを勧める場面は今後の展開にも繋がり得る。ドラマでは今回、汐路に整を紹介した犬堂我路(永山瑛太)の亡き妹・愛珠(白石麻衣)に“なるこたつみ”と呼ばれる心理カウンセラーが関わっていたことが明かされたが、その存在は未だ謎に包まれたまま。仮にドラマ第2期が制作されたとしたら、“なるこたつみ”の存在や愛珠の関係の解明、また汐路再登場の可能性もあるのではないだろうか。

参照

https://realsound.jp/movie/2022/03/post-996285.html

■公開情報
映画『ミステリと言う勿れ』
全国公開中
出演:菅田将暉、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美、滝藤賢一、でんでん、野間口徹、松坂慶子、松嶋菜々子、伊藤沙莉、尾上松也、筒井道隆、永山瑛太、角野卓造、段田安則、柴咲コウ
原作:田村由美『ミステリと言う勿れ』(小学館『月刊フラワーズ』連載中)
監督:松山博昭
脚本:相沢友子
音楽:Ken Arai
主題歌:King Gnu「硝子窓」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:東宝
製作:フジテレビジョン、小学館、トップコート、東宝、FNS27社
©田村由美/小学館 ©フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社
公式サイト:not-mystery-movie.jp
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