『らんまん』寿恵子の言葉に凝縮されていたフィクションの力 語り継がれる特別な一作に

 『らんまん』の中でいちばん心に残る「史実の大胆なアレンジ」といえば、やはり万太郎と寿恵子(浜辺美波)の「別れ方」だ。史実では、牧野富太郎の妻・寿衛子は図鑑の完成を待たずに亡くなっている。しかし本作では、図鑑の完成は共に大冒険を続けてきた万太郎と寿恵子の「盟約」。最終回のクライマックスで、余命わずかの寿恵子に万太郎が完成した図鑑を届けることができた。最終ページには、万太郎が寿恵子への永遠の愛をこめて名付けた「スエコザサ(学名:Sasa suwekoa na Makino)」が掲載されている。

「じゃあ私、万ちゃんと永久に一緒にいれるんですね」
「私がいなくなったら……。いなくなったら、いつまでも泣いてちゃ駄目ですからね。万太郎さんと草花だけ。草花にまた会いに行ってね。そしたら私もそこにいますから。草花と一緒に、私もそこで待ってますから」

 この構成と、寿恵子の言葉に、「フィクションの力」が凝縮されていたように思う。ドラマは作り事だ。けれど、作り事だからこそ、観る者に希望を与えることができる。明るい方角を指し示すことができる。そしてときに、フィクションが「真理」をもたらすことがある。

 植物にも、人にも、あらゆる命には限りがある。亡くなったあとは人間も植物と同じように土に還り、大きな自然の「循環」の一部となる。限りある命を懸命に咲かせることで、肉体がなくなったあとも「志」と「思い」を次の世代へとつなぐことができる。

 『らんまん』もまた、次の世代に語り継がれる作品であることは間違いないだろう。

参照

※1.「ああ言えばこう聞く 劇作家・脚本家 長田育恵さん」読売新聞
※2. https://bunshun.jp/articles/-/65608

■配信情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
NHK+、NHKオンデマンドで配信中
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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