立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第47回

3時間超え/90分未満の映画は特別料金が必要? シネコンのタイムテーブルを作って検証

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第47回は“映画の長尺化が映画館にもたらすもの”というテーマで。

 なんか最近の映画、長くない? 数年前から言われるようになった「映画長尺化」、皆さんはどう感じていますか。

 「長い映画」というのははるか以前からあるわけです。映画史上最高傑作とも讃えられる『七人の侍』は70年近く前の作品ですが、3時間27分もあります。同時代のこれまた名作中の名作『風と共に去りぬ』は3時間51分とさらに長い。

 『ゴッドファーザー』シリーズに『タイタニック』、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと、どの時代にも長尺作品はいくつもあり続けているわけですが、なぜここのところ長い作品が多くなったと感じるかと言えば、単に本数もそうですが、文芸大作やジャンルの必然として長くなりがちなミュージカルではなく、それまでは短めだったSF映画やアクション映画、アメコミヒーローものが2時間半近く、あるいはそれを越えてくることから来る感覚だと思います。

 このコラムでは、映画の尺が長くなると、映画館のプログラムがいったいどうなるのか、ということについてリアルな現場の視点から書いてみます。尺が長くなれば上映回数が減る、というのは誰でもわかることすぎて、実は詳細に語られたことがあまりないと感じたからです。

 さて、大体こうなる、という上映プログラムのサンプルを作りたいと思うのですが、シネコンと言われる業態でプログラムを組むときの、いくつか前提条件があります。これは各館いろいろ異なりますので、あくまでも一例です。ざっくりではありますが、説明しやすいよう以下のように想定してみます。

入れ替え時間は30分想定

 シネコン以前の映画館は自由席入れ替えなし(連続してずっと何回でも観てられました)が当たり前で、映画が終わってもろくに清掃も入りませんでしたが、シネコンはドリンクカップはおろか、ポップコーン一粒だって落ちてないくらいキレイにしなければなりません。

 もちろん座席指定の入替制ですから、終わったらすべてのお客様に退場していただいて、また最初から入場、しかも指定の座席に座っていただかなければなりませんから、その時間も加えると、よほどガラガラな状態でなければどうしても30分近くかかってしまいます。

予告編は10分と想定

 最近は入れ替え時間中にも予告編類を流しっぱなしにしている劇場が多いので、灯りが落ちてからの予告自体はやや短くなっていると思います。

 僕のいるシネマシティでは5〜6分ですが、それはシネアド(予告編以外の宣伝)を一切流さない主義であることが大きいかも知れません。

 ちょっと長い映画館でもさすがに15分程度で20分はないかと思いますが、どうでしょう……超えているところはあるかも。

最終上映の終わりは23時を越えたくない

 各自治体で若干異なりますが、例えば東京都なら「青少年の健全な育成に関する条例」により、映画館は終了が23時を過ぎる上映回には保護者同伴でも未成年を入場させることはできません。保護者がつきそっていればOKだろうと思っている方がかなり多いので、揉めること多し。なので可能な限り終了は23時を超えたくないという事情があります。

 またスタッフの終電問題もあります。車通勤がデフォな映画館には関係ありませんが。それでなくても、特にコロナ禍以降、いわゆるレイトショー時間帯(20時以降)の集客は厳しくなっています。

 基本的なルールを上記のとおり定めて、上映尺ごとにプログラムを組んでみたのが下記の図です。

 朝10時を初回とすると、2時間の映画でちょうどギリギリ5回上映、ということになります。

 シネコンは複数スクリーンあるので、スクリーンをまたいで短い作品と組み合わせることで、2時間を幾分か越えてもどうにかなりますが、シネコン以前の大体1つしかスクリーンがなかった時代になぜ尺に厳しかったのか、これで良くわかると思います。

 映画は原則1週間単位でスケジュールを切り替えるのでそれが単位になります。つまりこれが300席の劇場なら、5回上映で可売席数は1日に1,500席、週で10,500席。4回上映なら日に1,200席ですから、週だと8,400席で2,100席の差が出てしまいます。

 1週間全上映回満席なんてことはほぼあり得ませんが、最大で週に入場料2,000円×2,100席=420万円も売り上げが変わってしまうということです。

 さらに2時間45分を超えてしまうと、1日に3回しか上映できなくなります。3時間作品のところを見てください。回数も問題ですが、上映開始時間の問題も出てきます。

 この図は頭から機械的に並べただけですが、上映プログラムにおいて重要な要素として、その作品を何時から始めるか、というものもあります。当たり前ですが作品によって向いている時間帯があります。

 この図で3時間作品のところを見ていただくと、最終回は17時20分スタートになります。土日祝ならいいでしょう。しかし平日に最終17時20分回は早すぎます。ならばどうしましょう、仕事終わりになんとか間に合う18時30分からにしますか。すると入れ替え時間が1時間40分も空くことになります。

 それはよくない、終了を23時に合わせて19時50分からにすれば3時間空くじゃないかと。これなら2時間の映画が……入りませんね。映画は2時間でも10分の予告編と30分の入れ替え時間×2を加えて3時間10分空いていなければ入れ込めません。……もちろん実際のプログラム組みなら、入れ替え時間を5分ずつ詰めて10分確保したりはしますけどね。

 こうして図示してみると、例えば2時間ちょうどの映画と2時間5分の映画なんて、観る方としては誤差の範囲でも、ビジネスとしてはこのたかが5分がいかに大きいか、よりわかっていただけたかと思います。

 制作側も、もちろんそんなことは承知の上で、アメコミヒーロー映画やSF、アクション映画でも長尺化するのは、クリエイティブの理由以外にも、そのほうが売れる、そのほうが稼げるという目論見があるのでしょう。

 わざわざ映画館に観に行くべきと思わせる大作感を醸し出すこと。あれもこれも詰め込んで、物足りなさを感じさせないこと。

 世界の主要国の映画館のほとんどがシネコン化している現状、複数スクリーンをまたいで上映を重ねれば3時間作品だって1日5回以上上映できるはずだ、と踏んでいることもあるかも知れません。

上:集客が困難とわかりつつ回数確保のため朝8時台からスタート、2スクリーンを組み合わせ3時間を4回/2時間を6回確保

下:やや朝も早めに始めつつ23時超えを容認。車のお客様メインの映画館、都市部歓楽街なら成立。2時間・3時間ともに5回確保

 図示の通りではありますが、とはいえ組み合わせだけで解決できるわけではなく、営業時間を長くすることでしか回数確保は難しいです。朝を早くするか、深夜までやるか。

 組み合わせを前提とするならば、映画館としては同時に短尺作品も制作するべきではないか、と提案したいところです。長くて90分、できれば60分とか70分の映画がもっとたくさんあればいい。そうすれば、長尺作品と上手く組み合わせて、プログラムを組むことができます。

 実際、短尺アニメシリーズの連続上映は定着しつつあります。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』とか『ガールズ&パンツァー最終章』、『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』などすでに数年前からいくつも例があります。50分から70分程度の尺の作品はプログラム編成を行う側からすると、本当にありがたいですね。

 実写の短尺作品は少ないですが、最近だとセリーヌ・シアマ監督の『秘密の森の、その向こう』が73分でした。しかも心奪われる素晴らしい作品でした。

 具体的にそのありがたさを見ていただきましょう。3時間作品はそのままだと日に3回上映になりますが、1時間前後作品と組み合わせると、最初のルールに則りながらワンスクリーン1日5回以上の上映が確保できます。それが次の図です。

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