光を浴びて花を咲かせるムジナモが万太郎ならば、その影で徐々に嫉妬という泥を溜めていたのが田邊だ。野宮（亀田佳明）が言っていた「裏表のない、無邪気で、無知な人なんです。そういう子ほど、かわいい」というセリフをふと思い出す。田邊にもきっと万太郎に対して「かわいい」という愛弟子を見るような気持ちがきっとあったはずだ。しかし、それは複雑な愛憎へと変化していった。フラッシュバックするかのような田邊の回想が、それを見事に表現している。

　植物学雑誌の表紙を見て高笑いをした田邊は「何を期待していたんだか……」と愕然とした態度を示す。それは万太郎の無知から出たミスかもしれないが、田邊にとっては溜まりに溜まった泥が決壊するスイッチでもあった。「もういい！」と憤慨する田邊と言葉を失う万太郎。週頭の回、第81話で「出入りを許してもらえなかったら、今のわしはない」と話していた万太郎。東京大学という大切な出会いの場所、さらには研究に必要な資料を、万太郎は実質的に失うことになってしまう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回（全26週）】
総合：午前8:00〜8:15、（再放送）12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30〜7:45、（再放送）11:00 〜11:15
出演：神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作：長田育恵
語り：宮﨑あおい
音楽：阿部海太郎
主題歌：あいみょん
制作統括：松川博敬
プロデューサー：板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出：渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供＝NHK