『らんまん』の“主役”植物たちが担っている役割とは? 植物監修・田中伸幸に聞く

『らんまん』と史実が交差する植物に

万太郎(神木隆之介)が見つめるのは「ジョウロウホトトギス」

――『らんまん』は週ごとのタイトルが全て植物の名前になっていますが、そういった部分のアドバイスやアイデアを出したりはされているのでしょうか?

田中:週の植物は、長田さんがこの週はこれにしたいというもので構成されています。基本的には牧野富太郎に関連した植物をそのまま登場させているんですよね。牧野富太郎が出会って、研究して、それに対してのエピソードがあるような植物が出てきていて、それをドラマ風にアレンジしたりしているわけです。正直、なかなかそれを出すのが難しいと思うものもあるわけですけど……。どうにかして、脚本家の先生の意思を実現できるようにどう出していったらいいかを考えていっています。「ホウライシダ」(第14週)なんかは、何のシダにするかから随分検討していきましたが、最後は入手可能なもので決まりました。

――中でも特に苦労された週というのは?

田中:それはもう毎回じゃないですか?(笑)。「ユウガオ」(第11週)なんかは全然夏の時期ではなかったですからね。撮影の最初のうちは準備期間が長いので、我々も調べる時間があるわけです。私も実際に植物を掘って提供する時間があったのですが、後半になってくるとスケジュールがどんどん詰まってきて、監修が答えを出さなきゃいけない時間が短くなるんですよ。「ユウガオ」なんかも季節が違ったし、「ヤマザクラ」(第13週)も、「ムジナモ」(第17週)も大変でした。「ヤマトグサ」(第15週)「キレンゲショウマ」(第20週)は、植物そのものではなく、ストーリーを成立させるのが大変でしたね。牧野富太郎が新種として発表する「ヤマトグサ」や、これから出てくる「ヤッコソウ」(第19週)は基本は史実に基づいたストーリーになっています。例えば、蘭光(寺脇康文)先生が仁淀川で万太郎(小林優仁)に「イヌトウキ」を教えるシーン(第2週「キンセイラン」第9話より)。あそこは、高知の仁淀に分布している植物で、実際にかじって違いを教える場面を描きたいという要望がありました。「トウキ」は漢方で使われていた薬用植物で、実際に牧野富太郎も草木図説などで見ていたと考え、これが「トウキ」だろうと思うわけです。でも、かじってみると香りが弱くて違う。あの当時はまだ名前がついてないので、蘭光先生が即興で「イヌトウキ」と考えたようなセリフにしているんです。あれは後に牧野富太郎が実際に新種として発表する植物で、それを万太郎が幼い時に蘭光先生から植物の見方として習っていたというドラマと史実が交差するようにしているのです。

――劇中に登場する草花はレプリカが使用されているそうですね。

田中:レプリカが模型と違うのは、本物の型を取って作るので、通常は博物館の室内展示に使うものなんです。その植物が手に入らないから、レプリカを登場させようということとは違うんです。その植物が手に入らない限りはレプリカも作れない。その植物の花が咲いている時に型を取って、レプリカを作っておいて、いざ撮影の時にそれを出すということを逆算して準備をしていかなければいけないんです。それに演出が加わってシーンとしてきちんと再現されているかを現場で確認する。到底、私一人ではできないので、ほかにも専門家が5人、計6人の植物監修のチームを作ってそれらの作業に当たっています。ちなみに植物監修チームということで「SKT」と名をつけています。

万太郎(神木隆之介)の手にあるのは「ムジナモ」

――田中さんから見ても、植物レプリカというのはやはり精巧なものなのでしょうか?

田中:レプリカを作っている西尾製作所は、私が紹介したんです。国立科学博物館の室内展示用のレプリカを作ってもらっている、日本ではトップの技術を持った職人の方々がいる会社です。レプリカって本当はケースに入れて置いておくものなんです。基本的に土に埋めたり引っこ抜いたりとかは、想定されていない。あとは、植物って風にたなびく時に柔らかいんですよね。レプリカはたなびかない。でも、後半はしなやかなレプリカが開発されて登場します。レプリカも進化していますので、注目してください。周りの植物は実は生きているもので、例えばコケは本物で「バイカオウレン」だけレプリカというようにして、リアリティを出しています。

――田中さんが今後ここに注目してほしいという点はありますか?

田中:道を散歩していたり、山を訪れた時に目にする日本の植物には、ほぼ全てに名前があります。近所で見た花を調べようとすれば、必ず図鑑に載っているということは、あまり意識されないのかもしれませんが、牧野富太郎をはじめとする植物分類学者たちの研究の積み重ねによって、私たちはそのような恩恵を受けているということですよね。このドラマは植物分類学の黎明期に、植物を研究するその意気込みを描いています。そこに植物学的な監修を行なって、登場する植物を決めているということを念頭にオンエアを観ていただくと、また違った楽しみ方ができると思います。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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