眞栄田郷敦が『どうする家康』に刻んだ敗者の眼差し 奇妙な魅力が増し続けるムロツヨシも

 『どうする家康』(NHK総合)第22回「設楽原の戦い」。長篠・設楽原で、織田・徳川連合軍は武田軍との決戦を迎えようとしていた。しかし信長(岡田准一)は馬防柵を作るばかりで動こうとしない。家康(松本潤)はしびれを切らし、武田の背後から夜襲をかける危険な賭けに出た。

 酒井忠次(大森南朋)らが命懸けの奇襲を果たし、武田の鳶ヶ巣山砦を攻め落とす。穴山梅雪(田辺誠一)、山県昌景(橋本さとし)から報告を受けた武田勝頼(眞栄田郷敦)はすぐに織田・徳川連合軍の手の内を見破った。とはいえ正面の敵は三万、待ち構える鉄砲は千を超える。亡き信玄(阿部寛)なら勝ち目のない戦は決してしなかった。だが勝頼の目は闘志をたぎらせたまま、こう言う。

「だから武田信玄は天下を取れなかった」

 信玄の敵である信長と家康がすぐ目の前に首を並べている、二度とはない大舞台だ。勝頼の言葉に兵たちが熱狂する。兵たちを奮い立たせる信玄と勝頼の姿が重なった。「御旗盾無しご照覧あれ! 出陣じゃあ〜!」と野太い声をあげる勝頼の猛々しい顔は勝利を信じていた。

 だからこそ、織田の鉄砲隊による一斉射撃を受け、大敗を喫した後の勝頼の眼差しが心苦しい。勝頼の眼下に広がるのは数多もの犠牲者だ。前を向いていた勝頼がチラと空を見上げる。出陣の直前に見た見事な虹は吉兆ではなかったのか、と絶望する面持ちにも見えた。勝頼は最後まで表情を変えず、言葉も発しない。けれど、かたく閉じた口元は微かにわななき、しきりに動く喉元からは屈辱を耐え忍ぶ様がうかがえた。勝頼を演じている眞栄田の佇まいからは偉大な父を超えようと鍛錬を重ねてきたことが伝わってくるだけに、多くの兵を失ってもなお前を見据える勝頼の眼差しが虚しく映る。力なく振り上げられた勝頼の軍配に応える者はいなかった。

 織田・徳川連合軍の圧倒的な勝利で終結した戦いの中で、恐ろしさが増していたのが羽柴秀吉(ムロツヨシ)だ。秀吉は、明るく朗らかに振る舞っているときでも目だけは笑っていない、そんな底知れぬ恐ろしさがある人物だ。そんな秀吉だが、第22回では心の底から楽しそうな表情を見せた。彼は、織田勢の一斉射撃によって武田の武者たちが次々と銃弾に倒れていく姿に高笑いしていた。

「もはや兵が強いだけでは戦にゃあ勝てん! 銭持っとるもんが勝つんだわ」
「最強たる武田兵も虫けらのごとくだわ! ハッハッハッハッハッ!」

 この場面での秀吉の笑顔は無邪気だ。秀吉は信長以上に純粋にこの乱世を楽しんでいるのだと分かる。過去の回を振り返ると、秀吉は第14回で信長からしんがりを命じられ、「あ〜こりゃ死んだわ!」と嘆き悲しみながらも、一転して「ここでもし生き延びれば、わしゃまっとまっと上に行けるがや!」と笑い声をあげていた。秀吉は死をも恐れない強者では決してないが、乱世を生き延びること、それ自体を楽しめてしまう人物なのだ。

 信長と秀吉が言葉を交わす場面では、秀吉が家臣としての信頼を着実に得ていることがうかがえ、人の心に入り込む秀吉の巧みさにもゾッとさせられる。

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