山田裕貴×間宮祥太朗×岡山天音が語る、『BLUE GIANT』の“リアルさ”とキャラへの想い

 「ブルージャイアント」とは、あまりに高温なために赤を通り越して青く光る巨星のことを言い、劇中である登場人物は「仲間内ですごいジャズプレーヤーのことをブルージャイアントと呼んでいた」と語る。その言葉がタイトルになった漫画『BLUE GIANT』がアニメーション映画となり、観客を前のめりにさせるほどの“熱さ”が、我々を熱狂させている。

 上原ひろみをはじめ、プロのジャズプレーヤーたちによる大迫力の演奏に注目が行きがちだが、熱すぎる青春を演じた3人の声の演技も圧倒的だ。世界一のジャズプレーヤーを目指すサックス担当の主人公・宮本大を山田裕貴、一緒にバンドを組む天才的なピアニストの沢辺雪祈を間宮祥太朗、大の高校の同級生で全くの初心者ながらドラム担当の玉田俊二を岡山天音が、それぞれ演じた。

 “漫画から音が聞こえてくる”とまで言われている本作の登場人物の声を担当するにあたり、山田は非常に大きなプレッシャーがあったと語った。実際にインタビューを通して3人に感じたのは、演じたキャラクターに負けないほどの“思いの強さ”と熱量だった。それぞれが本作に感じている魅力から、大と共通する上京の思い出までを聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

3人で演じたことで生まれた“特別な絆”

ーー率直に漫画『BLUE GIANT』の魅力はどこにあると考えていますか?

間宮祥太朗(以下、間宮):一般的に漫画って、キャラクターのバックボーンを描いて、主要キャラクターは最後の方までいるものですよね。ですが『BLUE GIANT』は大という1人の人間の人生にフォーカスを当てているので、登場人物が大と交わり、交わっていた人物が去っていく。そのようにして通り過ぎていくのが面白いなと思います。人とか物とか場所とか、そのときの思いみたいなものが停滞しないでずっと流れている。そこが他の作品と特に違っている部分で、自分も大の人生に少しでも関わったような気持ちになれるところですね。

間宮祥太朗

ーーたしかに観ていて、大の人生を“目撃した”感覚があります。山田さんはどうですか?

山田裕貴(以下、山田):僕が思うこの作品の魅力は“良い意味での裏切り”ですね。たとえば原作の序盤で、大の初めての飛び入り演奏でお客さんに「うるさいんだよ!! 君は!!」と言われ、トボトボ歩いていくシーン。公園のベンチに座って、凹んでいるのかと思いきや「へでもねえや」って言ったり。映画だと、雪祈が憧れのSo Blue(作中に登場するジャズクラブ)支配人の平さんに散々指摘をされた後、雪祈の性格だと「ふざけんな!」ってなりそうなのに、「そこまで言ってくれるか」と言わせる感じとか。こうしたシーンの裏切りの部分が好きです。

山田裕貴

ーーこちらの予想を超える回答や展開に驚かされますよね。

山田:原作漫画でいうと、ジャズを聴いたわけでもないのにジャズってこういうことなのかなって教えてもらえるような感じもあります。あとはおしゃれなカットやコマ割り、歩いてるだけのカットがずっと続いてたり。そういう部分も好きです。

ーー岡山さんはどこに魅力を感じていますか?

岡山天音(以下、岡山):哲学的なところが好きですね。さっき間宮くんがおっしゃったように、いろんなキャラクターが大の人生とすれ違っていく。それぞれの登場人物がそれぞれの主観を持っていて、人生というものに対しての捉え方がある中で、大との関わりを通じて人生とか自分の好きなこととか、それと相対する“現実”をどう捉えていくべきか、みたいなことを教えてくれる作品だと思っています。自分の好きなことについてこういうふうに見つめると、少しだけうまく生きていけるんだなというふうに思わせてくれるところです。

ーー私も原作が好きで、たくさん好きなキャラクターがいます。映画は特に玉田の物語に感動しました。

岡山:玉田は一見すごく平均的で、普遍的な青年に思えますが、極端な部分も持ち合わせているキャラクターだと思います。蓄えているエネルギーやエンジンみたいなものは、ものすごく大きい。ただそれを稼働させる場所がないんですよね。本人は元々サッカーを本気でやりたいと思っていて、これぐらいの熱量でやりたいという理想があるけど、そういう環境がなかったり、飛び出したいけど飛び出せない。そういう場が自分の今の環境にはない。そんな、ただの平均的な男の子というだけではなくて、不器用というか、自分でも折り合いをつけきれない、コントロールしきれない部分を持ち合わせてる人だと思います。その中で、大との化学反応が起きてドラムの世界にのめり込んでいく。これは、そういう玉田がもともと持っていたエネルギーに反響して起こったことなんじゃないかな。

岡山天音

ーー燻っている“炎”が玉田の中にあったんですよね。山田さんは演じられた大について、どんな認識を持っていますか?

山田:最近読んだ本に書いてあったのですが、人間の感情を大きく分けるとしたら、“愛情”か“不安”か、それが全てらしいです。その本の情報をもとに考えると大って、不安を感じる部分がない人なんですよね。だから、「サックスが好きだ。サックスを吹くのが好きだ」という感情のまま、自分のことを何の不安もなく信じられる。だから、世界一のジャズプレーヤーになるまで、挫ける姿が全く想像できないキャラクターですよね。自分を信じることって一番難しいと思うんです。でもそれを、「いくべ」と言って、やってのけてしまう。たぶん、誰もがなりたい理想の人間の形で、憧れる生き方みたいな部分だと思います。そこが大の強さなので、演じるときも意識しました。

ーー大の強さにはやっぱり憧れてしまいますよね。

山田:あと、常に“何か”を信じ続けているんですよ。何に対しても「俺は信じる」って言える。きっと彼にとって、音楽やジャズを信じる気持ちと別に大差ないというか、何に対しても自分の信じる気持ちは変わらないんでしょうね。彼が持っている“強さ”の中で、一番魅力的なものです。それにはすごく共感できる。僕も大みたいに強いわけではないけれど、大になりたいと思う。だから好きなキャラはやっぱり大ですね。

ーー間宮さんは雪祈についてどう考えていますか?

間宮:雪祈はいろんなものが“ちゃんと見える人”なんですよね。何に対しても的確だし、正直です。でも、自分の今いる場所とか技術とか、そういうものも見えてしまっているからこそ、大みたいに手放しで何かを信じることができない部分もある。それに4歳からピアノをやっているので一種のエリートの立場でもあり、玉田みたいにがむしゃらさを見せることもできない。そんな器用な部分と不器用な部分が出ているキャラクターで、その正直さが雪祈の好きなところです。

ーー正直であるがゆえに、苦しみを抱えることもあるキャラクターだと。

間宮:そうですね。でも、日本人の文化だとお世辞を言うのが当たり前、みたいなマナーってありますよね。もちろん悪いことではないんですけど、例えば素人がドラムを叩いても「初めてでここまでできてすごいよ!」みたいな。そうやってみんなが言ってしまう中で、「お前素人、下手くそ。こんなやつとできねえよ」ということを雪祈は言うんですよ。それってすごく正直ですよね。でもそれは愛情でもあると思うんです。これを役者に置き換えてみても、やっぱりなんでもかんでも「すごいね」「うまいね」って言われることがある。なんかそれって、心からは信じられないんですよ。

山田:そうそう、わかる。

間宮:「あそこはあんまり良くなかったよ」みたいなことを言ってくれる人って、必ずしも悪意とは限らないんです。雪祈もそういう人で、だからこそ自分にも厳しいんですよね。2人に対しての人間的な劣等感とか憧れみたいなものも、表に出さないけど感じてはいる。そこに哀愁もあって、魅力的なキャラクターです。

ーー皆さんのお話を聞いていて、演じたキャラクターがそれぞれの中に深く落とし込まれているように感じます。アフレコのときは、3人でどういったことを話されましたか?

(左から)岡山天音、山田裕貴、間宮祥太朗

山田:実はあんまり話し合ったりはしていないんです。正直なところ、皆いっぱいいっぱいだったんですよね。長編のキャラクターの声を演じるのも初めてで、何より“漫画から音が聞こえてくる”って言われている原作なので、ものすごく大きなプレッシャーがありました。ですが、それを悪いふうには受け取ってほしくなくて。楽しい部分や3人だから助かったことももちろんありましたし、ただみんな一生懸命だった、ということです。

岡山:僕自身、普段の俳優の現場でも役について話したりすることってほぼないんですよね。やっぱり声優という分野については未知数なものが多いこの3人で、これだけ豊かな作品に対して一緒に一歩を踏み出せたのは、“特別な絆”というと大げさかもしれないですけど、繋がりを感じていることに気づきましたね。同じものを背負っているな、という感じです。

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