『ブラッシュアップライフ』の軸にある倫理観の高さ バカリズム作品は仏教がベースに?
そして、もう一つの魅力が、抑制された芝居によって生み出される日常性。元々、バカリズムのドラマは、芝居のトーンがリアルだったが、バカリズムの映像作品を多数手掛ける住田崇が演出を務めた『住住』(日本テレビ系)と『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)は、演技の日常性が突出していた。どちらも声を張らない淡々としたトーンで、一見どうでもいいような会話が延々と続く作品だが、なぜか面白くて目が離せなかった。
お笑い芸人ということもあってか、バカリズムが書くドラマは、どの作品もコメディの要素が強いのだが、映像だけ見ていると笑わせようという作為が感じられない。だが、この引いたトーンが逆に面白い。特に『架空OL日記』は「面白く見せよう」という作為を極限まで排除した結果、「どうでもいいように思える日常のやりとりが一番面白い」という、特異なドラマに仕上がっていた。
この「悟りの境地」とも言える人生に対する姿勢は『ブラッシュアップライフ』にも通底している。タイムリープというゲーム的状況を用いたミステリー要素や、劇中で流れるポケベルやプリクラといった懐かしのアイテムを用いた「あるあるネタ」が毎回、話題となっているが、本作最大の魅力は、異常な状況に置かれながらも、まるでゲームを攻略するかのように、淡々と冷静に人生のイベントを処理していく麻美の考え方にあるのではないかと思う。
それにしても「来世」、「徳を積む」、人間が別の生物に生まれ変わるという「輪廻転生」という考え方が根底にある本作の世界観はとても仏教的だ。そのため、バカリズム作品に感じる「悟りの境地」には、仏教がベースにあるのではないかと思えてくる。
第3話。2周目の人生が唐突に終わった麻美は、再び死後案内所に向かう。そして、案内係(バカリズム)に、来世で変わるのはインド太平洋のニジョウサバだと知らされショックを受ける。「人間になるっていうのはそんなに難しいことなんですか?」と麻美は尋ねるのだが、受付係は「希望している生命に生まれ変わるためには、それなりの徳が必要」と説明した後、「そもそも人間が1番っていうのは、あくまでも人間の価値観でしかなくて、生まれ変わる生命に特に序列はないんですね」と言う。
コメディなので、真剣に受け取る必要はないのかもしれないが、案内係の言う「生まれ変わる生命には特に序列はない」という生命観には衝撃を受けた。同時に、達観しているように見えた麻美ですら「人間に生まれ変わりたい」という人間至上主義に囚われていたことに「はっ」とさせられた。
案内係とのやりとりで見せた生命観は、今後、どのような形で本作に絡むのだろうか?
主張の強い台詞は書かずに、作品の雰囲気で見せていくスタイルこそがバカリズム作品の美意識であり魅力だ。『ブラッシュアップライフ』もおそらく、きれいな終わり方になるかと思うのだが、少しだけでもいいので、バカリズムの人生観や生命観が透けて見える結末となってほしい。
■放送情報
日曜ドラマ『ブラッシュアップライフ』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、松坂桃李、染谷将太、黒木華、臼田あさ美、鈴木浩介、バカリズム
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
プロデューサー:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基(AX-ON)、鈴木香織(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
企画協力:マセキ芸能社
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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