一方の貴司は北條のほとばしるパッションによって、蓋をしていた自身の“マグマ”と対峙することとなる。どこか胡散臭かった、史子から「俗物」とまで言われていた北條が、誠意を込めてぶつかってくることによって、貴司もついに本心をさらけ出す。絞り出すようにして貴司の口から出たのは「怖いんです」という上擦った声。日本各地を放浪し、自分を見つめ続けてきた貴司はたくましく、頼もしく見えていたが、それでも弱さを心の奥に仕舞い込んでいたのだと気づかせる、それは初めての貴司の姿。「静と動」で例えるならば「動」の、感情に突き動かされる赤楚衛二の演技である。

　舞は史子に、貴司は北條によって、自身の中にある相手への気持ちに正直に、わがままになる。ここまで先述してきたように、どちらかと言えば受けの演技が多かった福原と赤楚にとって、この告白はそれぞれが自ら歩み寄っていくシーン。『あさイチ』では、福原と監督を交えながら何度も段取りを重ね、“心の動機“を合わせていったと赤楚は明かしているが、まさにここまで長きに渡って、道のりと時間を積み重ねてきた福原と赤楚にしか出せない波長であり、それが「アイラブユー」という溢れる気持ちとして体現されている。貴司が抱きしめたのは目の前にいる舞という、目を凝らしても見えなかった幸せだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ！』
2022年10月3日（月）から 2023年4月1日（土）まで
総合：午前8:00〜8:15、（再放送）12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30〜7:45、（再放送）11:00 〜11:15
出演：福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作：桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽：富貴晴美
主題歌：back number 「アイラブユー」
制作統括：熊野律時、管原浩
プロデューサー：上杉忠嗣
演出：田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地：東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供＝NHK