『星降る夜に』春の思いを言葉にする勇気を与えた“手話” 北村匠海が見せた自分への苛立ち

 最初から自信のある人なんて誰もいない。どうしたら理想の自分になれるのか。どうしたら親友を元気づけられるのか。どうしたらちゃんと親になれるのか。どうしたら愛する人を守れるのか……。それでも、祈るような思いで精一杯目の前のことをやる。どうか、少しでも力になれますようにと。

 ドラマ『星降る夜に』(テレビ朝日系)第5話。前回に引き続き、親になることへの葛藤を抱えてきた春(千葉雄大)にスポットライトが当たる。妊娠中の妻・うた(若月佑美)が腹痛を訴える姿を見てパニックを起こした春。「うたが死んだら、俺は……」と取り乱す彼をなだめるのが、実際に妊娠中の妻を亡くしている深夜(ディーン・フジオカ)というのも胸が痛かった。

 だが、深夜にとっては、こうして誰かに寄り添うことが、一つの救いなのかもしれない。あの辛い経験が少しでも誰かの役に立っていると思えることが。そして、鈴(吉高由里子)もまた以前の職場を逃げるように退職した春に、自分も訴訟されて大学病院を追われた過去を重ねて言葉をかける。

 自分自身を「負け組」とか「情けない」と責め続けるのも、「ここも案外心地いいかも」「ここが自分の居場所かも」と許していくのも自分次第。生きていく場所は星の数ほどある。そう春に話しながら、鈴自身も今この瞬間の自分を肯定しているようだった。なぜなら、まだ彼女の中でそのトラウマは消えていないから。

 もちろん春も、自分がうたやその子どもを幸せにできないのではないかという不安をすぐに解消することなんてできない。直接うたに「結婚して幸せ?」と聞くのも怖い。でも、そんな春の思いを言葉にする勇気を与えたのは、一星(北村匠海)との“言語”である手話だった。

 手話なら思っていることを素直に言える。なんだか、その感覚は手紙やメールといった「文字なら思いの丈を素直に綴れる」というのと近いもののように感じた。このドラマを観ていると、手話というコミュニケーションツールが決して特別なものじゃなく、生活の中でごくごく自然にあるものだと思えてくる。そんな感覚になっていたからこそ、一星が鈴に「(頼れないのは耳が)聞こえないから?」と悔しそうにしていた場面にハッとさせられた。

 そんな鈴は大学病院で働いていた5年前に、1人の妊婦を救えなかったことが原因で訴えられた過去がある。鈴のトラウマを掘り返すかのようにSNSに誹謗中傷を書き込むだけではなく、鈴のプライベートを付け回し、挙句の果てには自宅にレンガまで投げ込む事件に発展。姿を見せないその男の存在に、鈴は怯えて過ごすことになってしまう。同じファインダー越しに見る鈴の姿も、一星の愛しい視線と、盗撮のそれとでは全く違うことに気づかされる。そんな鈴を心配し、いち早くそのピンチに駆けつけたのが深夜だった。一星はその役目が自分ではないことに不満を爆発させる。

 冷静に考えれば同僚の深夜が、鈴の近くでフォローできるのは当然のこと。もちろん鈴も、一星と深夜のどちらがより頼れるかだなんて思っていない。なんなら深夜自身が「僕じゃ頼りないかもしれないですが」と言うほどだ。だが一星は、今回の鈴の件のみならず、パニックになる春に何も声をかけてあげられなかった悔しさもあり「俺はそんなに頼りないのか?」と言わずにいられなかったのだろう。一見して鈴への叱責に見える言葉は、すべて自分への苛立ちだ。

 しかし、そんなまっすぐな一星だからこそ鈴は惹かれているし、春も尊敬している。自分の感情を隠さない。それは大人になるにつれて、いろんなことをそつなくこなそうとするほど、できなくなっていくもの。効率よく生きるあまりにぶつかることを恐れ、失敗を避けるあまりにどんどん萎縮していく。でも、一星は水をかけられようが打たれようが、自分のやりたいことに全力で向かっていく。そんな一星に出会えたからこそ、春は手話で思いを伝えることができたのだろうし、鈴も「今夜会えない?」と素直に自分の思いを伝えられるようになったのではないか。

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