キム・ヒョンジュとパク・ヒスンが熱演 “ミステリージレンマメロ”『車輪』の問いかけ

 トロリージレンマとは、(日本では「トロッコ問題」)哲学者のフィリッパ・ルース・フットが提唱し、今も議論が続けられている「ある人を助けるために、ほかの人を犠牲にすることは許せるのか」という、人間の道徳的なジレンマに対し、どう対処するかという問題のことだ。トロリーの先に、5人の人がいて、このまま進めばその人たちが轢かれて亡くなってしまう。あなたは、トロリーの進行方向を変えることができるが、その変えた先には1人の人がいて、進行方向を変えると、この1人が亡くなるというものだ。多くの人は、この問題で悩むことになる。作品の企画意図には、「トロリーがそのまま直進して走ると、破壊されるのはあなたが夢見てきた世界だ。 そのとき、隣の線路にいるのが愛する人、またはあなたの信仰、信念なら...…あなたは長い間憧れてきた世界を無事に守るためにトロリーの線路を変えるのか?」。さらに続けて、「正解のない選択の瞬間に直面した孤独と終わらない恐怖の中で、逃げることなく最善を尽くして“選択”することについての話だ」とある。

 政界で自分の夢のために邁進するジュンドが、夢のため、国民のために妻を犠牲にするのか、はたまたヘジュが、自分の信念と愛する夫のジュンドのどちらを選ぶのか、どちらも正解がなく、どちらも苦しい道だ。物語は、事故によって亡くなったジフンをきっかけに、トロリーがゆっくりと進んでいくように謎を明かしながら、先にあるものの恐怖を一枚づつ皮を剥ぐように見せていく。仲睦まじい夫婦が紡いだ太く硬い糸は、疑惑と不信と恐怖とで、どんどん細く短くなっていく。

 ジフンの子供を宿したと、スビンがやって来たことさえも、真のヴィランの目的のひとつだったのか、そもそもこの物語にヴィランはいるのか。信念によって、善も悪も変わりうる……。第12話「現実」では、第1話「序章」の頃には思いもよらなかった展開となり、ジュンドを演じているのがパク・ヒスンであることの真骨頂が見えた。ヘジュがジュンドの真実を知ることになるところで、物語は続いていく。

 自分ならどうするだろうか、ジュンドの立場ならば、ジュンドの行動を選択するだろうか? ヘジュの立場なら、トロリーの先にいる、ジュンドをどうするのか。劇中、ヘジュが「何が正しくて、何が適切で、どうすべきだったか」と吐露するが、この言葉こそが本作が表現し、描写するジレンマを表しているのではないだろうか。観る者に「あなたなら何を選びますか?」と問いかけてくる本作で感じるジレンマを、ぜひ自分の感性で体験してもらいたい。ラストにどんな選択が待っているのか、“ジレンマメロ”を盛大に堪能したい。

参考

https://programs.sbs.co.kr/drama/trolley/about/75155

■配信情報
『車輪』
Netflixにて配信中
(写真はSBS公式サイトより)

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