『舞いあがれ!』おもしろセリフの裏側に漂う日本社会の変化 地元密着の描写は吉と出るか

 2013年といえば、朝ドラでは『あまちゃん』(NHK総合)が放送された年である。母の地元・東北にやってきたヒロインが東京では引きこもっていたが、地元の海で心が開放されて、地元愛に目覚め、町おこしに一役買っていく。翌年から掲げられた「地方創生」の先端をいくような、理想的な地方讃歌のドラマになった。『カムカムエヴリバディ』方式だったら、五島の人たちがテレビで『あまちゃん』を観て、我らもこんなふうにあらねばと奮起するところであろう。

 跡継ぎ問題、地方の活性化と大人たちが悩んでいるなか、若者たちは、自分たちなりに道を模索している。舞は難関の航空機部品づくりを実現させる勢いで、貴司は短歌賞を受賞し、久留美(山下美月)は八神医師(中川大輔)にプロポーズされる。親には心配されているが、当人たちはちょっとずつ前進しているのである。

 久留美がプロポーズされた場所は元バイト先の庶民的な飲食店・ノーサイドだった。お金持ちの医者とつきあっていても決して派手な振る舞いをしないことに好感が持てる。2019年放送の月9で朝ドラと言われた『監察医 朝顔』(フジテレビ系/脚本:根本ノンジ)で、ヒロインが行きつけのもんじゃ焼き店でプロポーズされて「こんなB級もんじゃ焼き屋で愛の誓いすると思うかね……」と返すのとは違う価値観である。もちろんこれもそれほどきつい返しではなく、気心がしれているからこその言い回しなのだが。バブル時代ならきっと素敵なレストランなど最高のシチュエーションがエンタメとしての最適解で、その価値観を長らく引きずってきていた。でもそうじゃない価値観をもった人たちも世界にはいる。B級かどうかわからないが、庶民的なお好み焼き屋で長井の送別会が少人数で行われるのもしかり。『舞いあがれ!』は徹底的に地元密着感の強いドラマなのである。それは日本が質素になった、あるいは貧富の差が激しくなった象徴のようにも思えるのだが……。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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