『いちげき』に感じた新たな時代劇の形 『いだてん』とも重なる宮藤官九郎の巧みな構成
染谷将太が主演を務める正月時代劇『いちげき』(NHK総合)が、1月3日に放送された。
本作は、脚本家の宮藤官九郎と、演出家の松田礼人によるエンターテインメント青春活劇。観ていてまず印象に残ったのが、講談師・神田伯山による語りと「第一幕」というように章立てされた構成。1本のテレビドラマとしては少々長い90分というオンエア時間を小気味良く進んでいく。同時に想起したのは、2019年に宮藤が脚本を手がけたNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』。語り部である古今亭志ん生(ビートたけし)と神田伯山とは、落語家と講談師とで正確には立場は違うものの、時にはキャラクターの心情をえぐるように吐露するナレーションと物語のテンポを整える立場にいるという点では極めて近いと言えるだろう。
NHKドラマ公式アカウントでは、「宮藤官九郎さんいわく『七人の侍とアベンジャーズと池袋ウエストゲートパークを掛け合わせたような感じ?』」とツイートがされており、なんとも言い得て妙だ。舞台は幕末の江戸の街。農民を集めて結成された特殊戦闘部隊「一撃必殺隊」と薩摩が討幕のために作ったゲリラ集団「御用盗」を「七人の百姓VS薩摩の侍」と捉えれば、時代劇映画『七人の侍』というのもよく分かる。そして『アベンジャーズ』と『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)とも共通しているのは、一人ひとりのキャラクターが個性派揃いなところ。宮藤の代表作である『池袋ウエストゲートパーク』でいう、誠(長瀬智也)のポジションが、『いちげき』の主人公・丑五郎(ウシ/染谷将太)である。
現代と幕末で時代は異なるが、一言で言えばやさぐれている部分はかなり似通っている。まだ農民が武士に対して決して逆らうことができない、身分の差が激しい時代。ウシは頭を下げながら小声で「さっさと行け、クソ侍」と小言を並べるが、それが聞こえて肥溜めに落とされるといった、開幕3分で主人公がクソまみれになる、そんなキャラクターだ(というか随所に姿形を変えて「クソ」がインサートされているのなんなの……)。
ウシにとってターニングポイントとなるのは、第二幕「初陣」にて伊牟田(杉本哲太)率いる御用盗と斬り合いになる場面。伊牟田は大切にしていた仲間・前之助(楽駆)をウシに目の前で斬り殺されたことで、復讐の炎を燃やしていく。人を斬った/斬られた苦悩をそれぞれの立場から映し出しながら、2人は第四幕「金杉橋の奇襲」で再度対峙する。阿鼻叫喚の金杉橋。御用盗の大将・相楽(じろう)と市造(イチ/町田啓太)の手に汗握るアクションシーンと至るところで戦いが起こっている中で、ウシの前に“化け物侍”こと二刀流の伊牟田が現れる。