『みなと商事コインランドリー』が持つ愛おしさの秘密とは? 忘れられない夏をもう一度

 『みなと商事コインランドリー』のBlu-ray BOX&DVD BOXが12月23日に発売される。

 ギャラクシー賞マイベストTV賞で2022年9月度月間にノミネートされるなど、ファンから熱い支持を集めた『みなと商事コインランドリー』(通称『みなしょー』)。その魅力は何だったのか。『みなしょー』の持つ愛おしさの秘密を改めて語ってみたい。

これは、まっすぐに「好きだ」と言えるまでの物語

 東京でのブラック企業勤めに疲れ果て、地元に帰り、祖父から継いだコインランドリーを営むアラサー男子・湊晃(草川拓弥)と、湊を慕うイケメン男子高生・シンこと香月慎太郎(西垣匠)。『みなと商事コインランドリー』は、10歳差の2人の恋を描いたハートフルBLドラマだ。

 シンはどんなときも恋心を隠さない。まっすぐに湊へ想いをぶつけていく。湊は、そんなシンにときめきを覚えつつ、自分の中に芽生えそうになる微熱まじりの感情を一生懸命かき消そうとする。それは年齢差もあるけど、決してそれだけじゃない。

 湊は、まっすぐ人と向き合うのが苦手なのだ。自分の気持ちに正直になればなるほど、傷つくことも増える。一度ついた傷は簡単には治らない。化膿した傷口は、どれだけ時間が経っても、触れるとかすかに痛む。

 湊には10年前に大好きだった人がいた。だけど、臆病な湊はちゃんと気持ちを言葉で伝えることができなくて、不器用にキスだけして、そのまま逃げ出してしまった。その失敗を引きずったまま、湊は大人になった。誰かをまた好きになることに臆病になってしまった。

 だから、シンのまっすぐさがまぶしくて、羨ましくて、ちょっと怖かった。自分はシンみたいにまっすぐ「好き」だなんて言えないし、こんなふうに愛されるほど立派じゃないことくらい自分がいちばんわかっている。受け止める自信がないから、つい目を背けてしまう。これは恋なんかじゃないと自分に暗示をかけてしまう。

 『みなと商事コインランドリー』は、そんな意気地なしの湊がまっすぐに「好きだ」と言えるまでを描いた勇気の物語だ。そこには、確かな共感がある。潮風が駆け抜けるような希望がある。そんな優しい空気感を、私たちは愛おしさと呼んだのだと思う。

恋は両想い一歩手前がいちばんドキドキする

 2人の恋はなかなか前に進まない。シンの矢印は、いつも迷うことなく湊に向かっている。湊だってどう見てもシンが好きなのに、友達という一線を引いて、シンからの矢印にガードをかける。そんな中、再び現れる10年前に好きだった佐久間先生(福士誠治)。シンはずっと湊を見つめていて、湊はその視線を感じながら、でも不意に佐久間先生に目を奪われてしまう……。叶いそうで叶わない恋に、私たちの胸までかき乱される。

 本当は、ずっと両想い。だけど、一歩届かない。そんな両想い一歩手前の恋を見守るのが『みなしょー』の愛おしさの理由の一つだ。2人きりではしゃいだ夜のプール。布越しに心臓の音まで聞こえそうだった1枚のシーツ。額から伝わるぬくもりに耳まで真っ赤になりそうだった元気が出るおまじない。2人の距離は友達と呼ぶには近すぎて、恋と呼ぶには無防備すぎた。

 たぶん恋って両想い一歩手前がいちばんドキドキするんだと思う。可能性がなさすぎる恋は苦しいだけだし、気持ちが通じ合ってしまうと、もう昔には戻れない。好きなんだけど、素直になれない。好きじゃないと思いたいのに、つい相手のことを考えてしまう。一緒にいると楽しくて、その人がいるだけでなんでも頑張れそうな気がして。だけど、時折相手の気持ちが自分には向いていないことに泣きたくなる。くじけそうになる。

 その気持ちがわかるから、みんな応援した。湊とシンの恋に夢中になった。

潮騒が、初恋をさらっていく

 そんな両想い一歩手前の恋が、夕涼みのような穏やかなタッチで描かれていくのだけど、その中で切なさに身を切られそうになる回がある。それが第8話。シンの一途すぎる想いに湊が背を向ける回だ。

 シンの一途な想いに触れれば触れるほど、自分はそれに値するだけの人間ではないという後ろめたさが湊の中で膨らんでいく。自嘲気味に笑ったあと、今まででいちばん強い意志のこもった目で湊はシンを見つめる。その瞳が、いつものバカで単純な湊と全然違うから、もう止めることはできないんだと打ちのめされる。

 2人を出会わせた海がいやにうるさくて。白く砕ける波が、2人の未来みたいで。潮騒が初恋をさらっていくように、別々の道を歩んでいく湊とシンが、お互いに涙は見せない最後の意地が、私たちの心もさらっていった。この瞬間、『みなと商事コインランドリー』は“ゆるキュン”の先にある、恋の痛みまでを描いた特別なラブストーリーになった。

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