『アトムの童』が踏み込んだ、“ゲームと社会”の関係性 バディものとしての面白さも

 日曜劇場(TBS系日曜21時枠)で放送されている『アトムの童』が最終回を迎える。本作は、「ゲーム業界のバンクシー」と呼ばれる天才ゲーム開発者の「ジョン・ドゥ」こと安積那由他(山﨑賢人)が、倒産寸前の老舗玩具メーカーを立て直すために、少人数で制作するインディゲームの開発を目指す物語だ。

 「Stage1」冒頭、1978年に日本で作られた『スペースインベーダー』が世界中を席巻し、その後、40年間でゲームは巨大産業に発展したことが語られ、「大企業から個人開発者まで、もっとも希望と挑戦に溢れた場となっている。次の主導権を握るのは誰か? まさに群雄割拠の時代に突入したのだ」と、講談師の神田伯山のナレーションで語られる。

 だが、日本のゲーム業界は硬直しており、大企業が権利を持つ人気作の続編ばかりがヒットしていることは、ゲーム雑誌『ファミ通』(KADOKAWA Game Linkage)に掲載されている毎週のゲームランキングの売り上げをみれば明らかだ。

 劇中でも、日本のゲーム文化が現在、行き詰まりをみせていることを示唆する台詞が登場する。この停滞はそのまま、経済的にも文化的にも行き詰まりをみせている日本の状況と重なる。

 そんな中、少人数でも、面白いアイデアさえあれば世界中で大ヒットする可能性のあるインディゲームの世界に、老舗の玩具会社が活路を見出して、天才ゲームデザイナーとチームを組む展開は、日曜劇場らしい物語だと言えるだろう。

 日曜劇場は1956年から続く老舗のドラマ枠だ。当初は1話完結の単発ドラマ枠だったが、1993年から連続ドラマ枠に変わり、サラリーマンもののドラマを作っていた。だが2000年代に入ると、『砂の器』や『華麗なる一族』といった昭和の名作小説を原作とした作品がヒットしたことで、次第にクラシカルで重厚な物語を作るドラマ枠へと変わっていった。一方で、主演にはSMAPの中居正広や木村拓哉といった国民的アイドルを抜擢。昭和的な古い物語を人気俳優主演で作るという古さと新しさの塩梅が実に見事であった。

 そして、2010年代に入ると『半沢直樹』を筆頭とする池井戸潤の小説を次々とドラマ化して大ヒットを連発。法律や金融を軸に、ロケット開発やスポーツシューズといった最新技術をめぐる攻防を描く池井戸潤原作のドラマは、取り扱うテーマこそ最先端の題材だが、根底にある魅力は、少数精鋭だが技術を持つ中小企業が銀行、大企業、警察といった巨大な権力に立ち向かう姿を描いた普遍的な物語となっている。

 『アトムの童』はオリジナルドラマだが、カプセルトイを企画・製造する老舗の中小企業と興津晃彦(オダギリジョー)が率いる大手インターネット検索会社の対決を軸に、興津の指示で「アトム玩具」を苦しめるやよい銀行の行員たちの三すくみの物語となっている。また、興津がアトム玩具を買収した目的が、特許技術の獲得だったことも『下町ロケット』などで描かれていた展開で、物語の多くの要素は池井戸潤原作ドラマのフォーマットを踏襲していると言えるだろう。

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