最終話まで視聴者を謎の底へ ドラマアレンジで得た『シャイロックの子供たち』の不穏さ

 WOWOWで放送・配信されている『連続ドラマW シャイロックの子供たち』は、『下町ロケット』シリーズや『半沢直樹』シリーズなどのヒット作で知られる池井戸潤の小説をドラマ化したものだ。

 舞台は東京第一銀行・長原支店。人事部調査役の坂井寛(玉山鉄二)が、長原支店で起きた100万円紛失事件と、主人公である課長代理の西木雅博(井ノ原快彦)の失踪事件の謎を調べていく中で、長原支店で働く行員たちの人間模様が明らかになっていくという、ミステリー仕立ての群像劇となっている。

 タイトルにある“シャイロック”とは、シェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』に登場する強欲な高利貸しで、本作に登場する銀行員たちの姿と重ねられている。

 脚本の前川洋一、監督の鈴木浩介、プロデューサーの青木泰憲を中心とした制作チームは、『空飛ぶタイヤ』、『下町ロケット』、『アキラとあきら』、『鉄の骨』など、池井戸潤の小説をWOWOWの「連続ドラマW」で映像化しており、どの作品も重厚で見応えのある大人のドラマに仕上がっている。『連続ドラマW シャイロックの子供たち』は、その集大成と言える作品で、これまで積み上げてきた映像化の実績を踏まえた上で、大胆かつ適切な映像化に成功している。

 まず本作は「episode0」となる25分の短い物語から始まる。人事監査役の坂井が銀行員たちに聞き取りを行う中で、長原支店で起こっている異変と、その中心人物が現在失踪している西木であることを提示する。この時点では、銀行を舞台にしたミステリードラマで坂井が探偵役の主人公のようにも思える。しかし、本編となる「episode1」がスタートすると、物語は銀行を舞台にした群像劇へと変わり、西木は各銀行員たちと深い関わりを持つ存在で、裏で様々な問題を解決していた影のヒーローだったことがわかってくる。

 この構成はドラマならではのものだ。原作小説は、1章ごとに主人公が切り替わっていく連作群像劇となっており、西木が登場するのは営業課の北川愛理(西野七瀬)の登場する章からで、物語中盤になって、西木が失踪したことが語られる。

 原作小説の見せ方は、先の展開がわからないがゆえの臨場感と、一人ひとりの登場人物にフォーカスしていく連作短編集としての面白さがある。だがこれは、一気読みできる小説だからこそ成立する描き方で、エピローグも含めて全5話のドラマである本作の尺にそのまま落とし込むと、どうしても冗長なものとなってしまう。

 そのためドラマ版では西木の失踪事件を最初に語ることで、作品全体の構造を提示し、そこから物語が行き来しながら各登場人物に焦点を当てていく。その結果、劇中では常に不穏な気配が漂っており、なぜ西木が失踪したのかという関心が、視聴者を最後まで惹きつける。

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