さて、「筋肉の悪魔」のカットが英断だったもう一つの大きな理由は、人気主要キャラを一気に登場させたことにある。デンジの先輩として紹介された早川アキ、そしてパートナーを組まされた魔人のパワー。それぞれのキャラを演じた坂田将吾とファイルーズあいの声色が解釈一致すぎて凄いのと、やはりデンジを路地に連れ出した際にタバコに火をつけて吸うアキの一連の動作を丁寧に描いているあたり、MAPPAはファンのニーズをしっかり理解している。

　「筋肉の悪魔」のカットの代わりにアキとデンジの共同生活の描写にオリジナルカットが増えていたことも嬉しい。特に「トイレットペーパーを使い切ったくせに新しいのに変えてからトイレを出ないやつ」に対する苛立ちという“日常あるある描写”が良い味を出している。「俺の優しさが伝わらないかなあ」と、公安をやめさせるためにデンジをボコボコにしたアキ。しかし、ケンカの時はデンジと違って急所を狙わないであげたり、嫌がらせで投げたタバコの火を唾でちゃんと消してあげたり、その後練馬区の住宅街で起きた魔人の事件の際にも、「義務教育を受けていない」というデンジに対して一瞬驚くも、それをバカにせずに知らないことをわかるように教えてあげたり、苛つきながらも何だかんだ自宅で面倒を見てあげたり、本当に彼の優しさが伝わる回でもあった。

　東京に来てから、たくさんの人が行き交う人混みの中を歩くデンジ。丘の上から眺めて自分が住む場所ではないと一線を引いていた世界に、彼が入ってきたことがわかる。そこで彼はアキに「生きているヤツはみんな根っこに信念があるヤツだけ」「お前以外全員本気なんだよ」と否定される。裏を返せば「お前は信念もなければ本気でもない」ということだ。そこで、デンジは彼なりに信念を掲げ、それに向かって本気になることを決意する。「胸を揉みたい」という一見馬鹿らしい動機でも、それは主人公にとって立派な動機になるのだ。そして彼が「胸」にこだわるのも、子供の頃に母親を病気で亡くし、その温もりを味わえなかった彼の母性への焦がれに思える。

　風呂に毎日入って、美味しいものが食べられる。そのささやかな夢を叶えるも、それで良いのかと疑問をもつデンジ。普通の暮らしをする、その夢を見させるというポチタへの約束はデンジ個人の幸せへの追求にも繋がるのだ。デンジ自身も自覚していたが、彼と第1話で戦ったゾンビは何も大差ない。人は何かを得ると次にまた何かを望む。人間として、欲求や渇きが収まるどころか、さらに何かを求めようとする感覚の自然さと醜悪さ。デンジはそれを、正義感を振りかざして否定したりしない。彼自身でそれすら体現し、個人の幸せを追う形の主人公として私たちの心に寄り添ってくれる。

　そんな彼が、パワーという相棒を手に入れた。「友達になれる悪魔がいたらなりてえよ。オレ友達いねえもん」と言った彼と、魔人のパートナー。このコンビネーションが起こす化学反応が、今から楽しみだ。

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、毎週火曜24:00～放送
Amazon Prime Videoにて、毎週火曜25:00～配信
各プラットフォームにて、毎週水曜25:00～見逃し配信
キャスト：戸谷菊之介（デンジ）、井澤詩織（ポチタ）、楠木ともり（マキマ）、坂田将吾（早川アキ）、伊瀬茉莉也（姫野）、高橋花林（東山コベニ）、八代拓（荒井ヒロカズ）、津田健次郎（岸辺）、内田真礼（天使の悪魔）、花江夏樹（サメの魔人）、内田夕夜（暴力の魔人）、後藤沙緒里（蜘蛛の悪魔）、大地葉（沢渡アカネ）、濱野大輝（サムライソード）
原作：藤本タツキ（集英社『少年ジャンプ＋』連載）
監督：中山竜
脚本：瀬古浩司
キャラクターデザイン：杉山和隆
アクションディレクター：吉原達矢
チーフ演出：中園真登
悪魔デザイン：押山清高
美術監督：竹田悠介
色彩設計：中野尚美
画面設計：宮原洋平
音楽：牛尾憲輔
オープニング・テーマ：米津玄師「KICK BACK」
挿入歌：マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ：
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー：瀬下恵介
制作：MAPPA
©藤本タツキ／集英社・MAPPA
公式サイト：https://chainsawman.dog/
公式Twitter：@CHAINSAWMAN_PR