『舞いあがれ!』登場人物を“俯瞰”する脚本への信頼感 親の“弱さ”も描く画期的な朝ドラに

 舞を迎えに来ためぐみと祥子は「およ」「およ」と短いお国言葉で挨拶を交わす。本音を溜めずにちゃんと言葉にすると説きつつ、いざとなると言葉にしない。でもふたりには「およ」だけでも十分なのだ。舞が貝殻で作った飾りをお世話になった人たちにひとつずつ贈る。これも言葉以上に感謝の気持ちが伝わってくる。

 だが、やさしく穏やかで良識的な世界にほっとする感想ばかりではない。例えば、祥子の失敗に関しては、ネット上では、いくら孫がかわいいからと言って、孫と凧を作っていて大事な仕事の時間を忘れることに厳しい声もあがっていた。客は船の出発が遅れたので帰りの飛行機に乗り遅れてしまう。ぎりぎりまで釣りを楽しみたい客に大事をとって早めに集合するように祥子のほうから提案したにもかかわらずのことだったから客は怒り心頭だ。こんな洒落にならない失敗を見せてほしくないという声もあれば、客が怒り過ぎという声もあって、人それぞれだなあと興味深くネットの声を筆者は読んだ。

 決して他人に迷惑をかけないと自分を律し続けている人も世の中にはいるだろう。筆者としては、世の中にはこういうことはもちろんあってはならないけれど、なぜかやらかしてしまうこともあるもので、祥子が言い訳しないで謝り(この場合言い訳したら火に油を注ぐことになる)、もろもろの損失を弁償していることに着目したい。何か予想外のことが起きたとき、どういう選択をするか、それが大事だという認識で台本が書かれているように感じて、安心や信頼を覚えるのだ。それに客がふたりいて、やたらと威張ったり怒ったりしているひとりをもうひとりがフォローすることで相対化されている。あるいは、今後舞が飛行機に携わるとき、時間や乗客がどれだけ大事か、その戒めにもなるだろう。極めて慎重に物事を俯瞰して描いている作品なのである。

 その分、トーンは抑制されていて、エンタメとしては物足りないと感じる視聴者もおそらくいるだろう。と思ったところで東大阪に戻り、舞も福原遥に成長する。また新たなターンのはじまり、というかこれからが本番。しばし、静観したい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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