『舞いあがれ!』登場人物を“俯瞰”する脚本への信頼感 親の“弱さ”も描く画期的な朝ドラに
“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第2週「ばらもん凧、あがれ!」は五島列島に数カ月滞在した舞(浅田芭路)が目覚ましい変化を見せる。
他者に気を使うあまり熱が出てしまうことを繰り返してきた舞だったが、祖母・祥子(高畑淳子)との生活を通して本音を出せるようになっていく。五島列島の空と海や気のいい人たち、まるで楽園のような場所から東大阪に帰るとき、舞は覆っていた重めの髪の毛をサイドで結び、顔を全開にして、晴れ晴れしていた。凧をあげ、飛行機に乗り、舞自身が舞いあがる準備は万端だ。
主人公・舞の悩みを解決するシンプルなエピソードのようで、実際のところ、過去の母と子の問題を解決した手の込んだ2週間だった。第1週では、舞のみならず母・めぐみ(永作博美)の事情を描き、第2週では祖母・祥子の事情を描く。14年前に喧嘩別れした母と娘。祥子は娘の結婚に反対しこじれたため孫が生まれても会えなくなってしまったことを失敗と捉え後悔していた。そのことをおくびにも出さずに、たったひとりで五島列島でたくましく生きてきたが、舞をしばらく引き取ることで、失敗を取り戻すことになる。舞に本音をはっきり言うことを説いたのは、祥子が自分にも言い聞かせていたともいえるだろう。めぐみのほうも、祥子への反発から誰にも頼らず全部ひとりでやろうと無理をしてきて、限界にぶち当たる。
言ってみれば、舞のストレスの根源が祥子とめぐみの問題だったのかもしれない。朝ドラでは、漠然とだが、主人公が未分化で、人間的に成熟した母や祖母(あるいは父や祖父)が主人公の導き手となる図式があるように感じていたが(父の例は少ない)、『舞いあがれ!』では、祖母も母も弱いところがあり、祖母も母も決して完成した人間ではないことを赤裸々に見せる。髪を振り乱し働き、疲れを滲ませるめぐみ。第1週でシンクの前にしゃがんだめぐみは小さく弱く見える。でもまだそれを舞に見られていないからマシで、第2週では、たくましさを振りまいていた祥子が仕事でポカをやって客に叱られ平謝りしている姿を舞にさらけ出すことになる。
舞は、尊敬する祖母の失態に幻滅することもなく、むしろ「失敗は悪いことやないんやろ」と励ます。このときの祥子の姿に、筆者は『赤毛のアン』でマリラが年老いて目が悪くなって弱気になってしまった場面を思い出したが、なんとなくアニメのマリラと祥子を筆者が重ねて見てしまっているだけで、『舞いあがれ!』では『赤毛のアン』ほど人生に関わる重大事にはならない。大人になってお世話になった人に返すという教訓ではなく、小さくて非力な子供だって大人を慰めることができるということ。しかもそれは祥子から学んだことが生きているということで、祥子の言動が舞を励まし、今度は舞が祥子を励ます。これこそ相互扶助の理想形になっている。たぶん、祥子の弱さを知った舞は、めぐみの弱さも理解できる。