『競争の番人』は不正だらけの現実を糾弾? 弱者が強者に立ち向かった夏ドラマを総括

 テレビドラマで不思議なのは、作り手たちが現実のニュースなどに影響されながら企画を考えるからなのか、同じクールに似た設定の作品が並ぶこと。今回の7月クールでは『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)、『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系)、『ユニコーンに乗って』(TBS系)も、大企業に対し小さい会社が立ち向かうさまを描いた。韓国ドラマのリメイクだが『六本木クラス』(テレビ朝日系)もその構図はあった。どの作品でも、小さい組織に属する主人公たちは、資本力や政財界とのコネクションで劣る分、頭を使ってアイデアで勝負する。『石子と羽男』に出てきた絵本『スイミー』の例え話が印象的だった。大きい魚に食べられてしまう立場の小魚たちは一計を案じ、群れの全員で大きな魚の形を作って生き延びるのだ。

 そんな「弱者VS強者」という構図も夏ドラマのテーマだった。『競争の番人』では、弱小官庁と呼ばれる公取を馬鹿にし、「弱いものには何もできない。むしろ害悪だ」とまで言う藤堂に、最後、小勝負が「弱くても戦えるということ、分かってくれました?」と問いかけた。『石子と羽男』では「弱い者は負け続ける」と言う投資家の御子神(田中哲司)に、弁護士の羽根岡(中村倫也)が「そもそも力が弱くちゃいけないんですか?」と問い、ごく普通の弱い人間こそが真面目に生き、この社会を支えているのだと語った。同作では、過剰なまでの競争社会の中で負け組とされる人たちの側に立ち、法律は弱者のためにあると描き続けた西田征史の脚本がすばらしかった。

 もちろん、大企業イコール悪というわけではない。夏ドラマでは『競争の番人』の藤堂、『石子と羽男』の御子神、『魔法のリノベ』の有川部長(原田泰造)という支配的で他人を信じられず同僚さえ見下す男たちが、悪として描かれた。御子神と有川には成り上がってやるという野心もあった。『六本木クラス』の長屋会長(香川照之)は説明不要の典型的なパワハラ経営者だ。要は、若い世代から見れば、現代にアップーデートできないおじさんたち。なまじ決定権を握っているだけに迷惑だ。そんなふうに権力を持つ個人がその野心のために、または己の立場を守るために不正を働くとき、私たちはドラマの主人公たちのように抗い、勇気をもって告発できるのか。現実とリンクしている部分が多いだけに、そんなことを考えさせられた。

■配信情報
『競争の番人』
Tver・FODにて、最新放送回配信中
出演:坂口健太郎、杏、小池栄子、大倉孝二、加藤清史郎、寺島しのぶほか
原作:新川帆立『競争の番人』(講談社)
脚本:丑尾健太郎、神田優、穴吹一朗、蓼内健太
演出:相沢秀幸、森脇智延
プロデュース:野田悠介
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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