『競争の番人』は不正だらけの現実を糾弾? 弱者が強者に立ち向かった夏ドラマを総括

「この国はブレーキの壊れた列車みたいなもんなんだ。偉いやつらがこっそり集まって、なんでも決めてしまう。どんなに頑張ったってだめなんだよ。そんなふうに走り続ける仕組みが出来上がってるんだよ」

 こんなにタイムリーなセリフがあるだろうか。『競争の番人』(フジテレビ系)第8話では小勝負勉(坂口健太郎)が中学生だった頃の回想シーンが展開し、四国で小さい建築会社を経営していた父・誠(高橋努)が自殺する直前、そう語った。当時、談合を仕切っていたのは、国土交通省の藤堂(小日向文世)。誠は工事が受注できないという現状に屈して、いったん談合に加担するものの、良心を取り戻して公正取引委員会(以下、公取)に報告。しかし、関係者から「裏切り者」と一斉に責められて会社が存続できなくなり、命を絶ってしまった。

 折しも、報道されているように、東京オリンピックのスポンサー企業選定をめぐって東京地検が捜査を始め、収賄容疑で逮捕者が次々に出ている最中。国民の税金を投入する公共事業には談合や収賄がつきもので、決定権を持つ人物にすり寄らなければうまい汁は吸えないと、ドラマの設定そのままの、嘘のような本当の話が見えてきている。

 小勝負は亡き父の無念を晴らすため公取の審査官となり、第10話ではついに藤堂が談合の首謀者であるという確証をつかんだ。藤堂は震災での経験から安全な建物を建てるためには競争は必要なく、大手ゼネコンに工事を任せるべきだと考える確信犯。小勝負はこう言って藤堂を責めた。

「(証拠の領収書には)長い間、大きな力に一方的に虐げられてきた、たくさんの下請けたちの怒りや憎しみ、無念が詰まっているんです。競争のない社会は次第に上から腐り、私腹を肥やそうとする連中が現れる。何が国民のためだ」

 しかし、藤堂は東京地検に連行されることになっても改心しなかった。「私がいなくなっても談合はまだどこかで続く。談合はなくならないよ」と言い捨てて去っていった。たしかに、現実社会で不正を働く人も、こうした「世の中なんてそんなもんだ」という一種の諦念を抱え、さしたる罪悪感も持たずに生きているのかもしれない。そういった人が権力を握り、不正のシステムを作り上げてしまうと、ドラマで描かれたように、周囲に「世の中なんてそんなもんでしょ」という認識が伝染し、道を誤る人がどんどん出てくるのではないだろうか。そこに待ったをかけ、しんどくて面倒くさいけれど、実力勝負で競争しなさいと働きかけるのが公正取引委員会などの機関なのだ。

 小勝負のキャラクターはドラマオリジナル要素が多く、まるで『半沢直樹』(2013年/TBS系)のように亡き父の仇を討つというのは、新川帆立が書いた原作小説にはない展開なのだが、小勝負が公取審査官として奮闘する理由としては説得力があり、談合が真面目に努力している中小企業を潰すという構図もよりわかりやすく描いていた。最終回となった第11話、小勝負が故郷の四国に転勤になり、スーパーでの立てこもり事件を不正摘発で解決するというちょっと無理があったエピソードも、もはや原作とは別軸の番外編として観ることができた。

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