『DC がんばれ!スーパーペット』が描く、“真のヒーローとは何なのか”という大きなテーマ

 本作で最も心を動かされるエピソードは、仲間の犬、エースの過去である。彼はかつて飼い犬であったが、愛する飼い主の家族を救うために献身的な行動をとったことで、逆に誤解を受けて施設に捨てられてしまったのだ。しかし彼はそれでも、愛する人のためなら何度でも同じことをやると語り、観客の涙を誘う。

 この、犬の忠誠心や優しさを尊ぶ文化は、とくにイギリスやアメリカなどにおいて、特別なものがあるといえる。アメリカでは、映画やドラマで『名犬リンチンチン』、『名犬ラッシー』など、犬を主役とした作品が好評を博し、日本の名犬ハチ公もハリウッド版の映画となった。それほど、犬は人間のパートナーとして重要視され、愛されている。

 とくにリンチンチンは第一次世界大戦において、戦火の中で危機的状況にあったドイツの軍用犬の犬舎からアメリカ軍の兵士が連れ出した、実在の犬であり、アメリカに渡って映画スターとなった稀有な存在だ。奇しくもリンチンチンは、本作を送り出したワーナー・ブラザースの実写映画作品などでスター犬として長く活躍し、同社に大きな功績がある犬である。このリンチンチンの境遇は、施設で炎にまかれていたエースたちの状況にも重ねられるだろう。

 一方で本作は、そういった犬の忠誠心を尊ぶ文化が浸透しているからこその限界も垣間見える。そもそも「ペット」とは、人間が自分たちの都合でそばに置いている動物である。そのような境遇を人間側が幸せな存在として描くことは、突きつめて考えていくと自分勝手なことなのではないかと思えるのだ。

 しかし、ペットたちの活躍を楽しみに映画館に駆けつけてくれた観客に、そんな内容を突きつけるのは、酷といえば酷である。もし、そういう展開が考えられるとすれば、おもちゃたちが人間から独立する幸せを描いた『トイ・ストーリー4』(2019年)のように、シリーズ化が進んだ先でしかあり得ないだろう。

 とはいえ、エースの見せた献身の心が、ヒーローの本質につながっていると考えられるのもたしかなことだ。自分の力を、自分自身が得をするためでなく、逆に損をしたとしても、目の前の弱い存在のために発揮する……スーパーパワーがなかったとしても、そんなことができれば、その存在は紛れもなく“ヒーロー”と呼べることを、本作は示している。

 実際、ジャスティス・リーグのなかでバットマンは、人智を超えた特別なスーパーパワーを持っていない。際立っているのは豊富な資金力くらいしかないのだ。しかし、それでも彼が仲間に受け入れられているのは、それが分かった上で、人々のために悪に立ち向かうことができるからだ。本作の正義のペットたちもまた、人間たちに見捨てられ閉じ込められるという、悲惨な目に遭いながらも、世界を救うために奮闘する。ペットたちは、スーパーパワーを得たからではなく、他者のために行動することでヒーローの仲間入りを果たすのだ。

 そのように考えれば、観客であるわれわれも、自分たちの力の及ぶ範囲で、他者を助けることができれば、すぐにでもヒーローになれるはずなのだ。そんな基本的ながら重要なヒーロー論を、ペットたちの活躍や決断によって、非常に分かりやすく描いてくれたのが本作だったといえよう。

■公開情報
『DC がんばれ!スーパーペット』
全国公開中
監督:ジャレッド・スターン
製作総指揮:ジョン・レクア、グレン・フィカーラ、ニコラス・ストーラー、アリソン・アベイト、クリス・レイヒー、シャロン・テイラー、コートネイ・ヴァレンテ
製作:パトリシア・ヒックス、ドウェイン・ジョンソン、ダニー・ガルシア、ハイラム・ガルシア、ジャレッド・スターン
声の出演:楠大典、高木渉、魏涼子、松岡茉優、松尾駿(チョコレートプラネット)、市川ぼたん、梶裕貴、鈴村健一、中村悠一、山野井仁、山寺宏一、宮島依里、ランズベリー・アーサー、小若和郁那、菊池通武、武内駿輔、佐古真弓、山路和弘、朴璐美
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & © DC
公式サイト:superpet-movie.jp

関連記事