入江悠「地上波だとできないような攻め方も」 松田龍平と再タッグ『鵜頭川村事件』を語る

 『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』『AI崩壊』の入江悠監督が、作家・櫛木理宇の同名小説を大胆に脚色した『連続ドラマW 鵜頭川村事件』で、WOWOW初のパニックスリラーに挑んだ。

 主演を務めるのは、入江監督とは2011年にWOWOWのドラマW『同期』で組み、本作で11年ぶりの再タッグとなる松田龍平。失踪した妻を捜して、娘とともに妻の故郷・鵜頭川村を訪れるも、集中豪雨によって唯一のトンネルが土砂崩れで遮断されたことで、村から出られなくなってしまう主人公の医師・岩森を演じている。

 しきたりや因習、一族の繋がりが強い過疎の村を舞台に、人々の本性があらわになっていく本作。もともとパニックスリラーが好きだという入江監督に、嵐の後の作り込みが素晴らしい映像や美術のこだわり、本作ならではの挑戦を聞くとともに、松田龍平との再タッグで感じたことや、キャストに名を連ねる蓮佛美沙子や山田杏奈への印象も聞いた。

松田龍平が演じたからこそ膨らんでいった主人公の娘への思い

――入江監督はもともとパニックスリラーがお好きだとか。

入江悠(以下、入江):惹かれますね。喫茶店でカップルが喋ってるみたいなことには、あまり興味がないんです。現実ではなかなかないような状態に置かれたときに、人はどうなるのかといったことに関心があります。

――本作では松田龍平さんとの11年ぶりのタッグが話題になっていますが、立ち上がりは企画(原作)ありきだったのでしょうか。

入江:そうです。まさにその11年前の『同期』を撮らせていただいたときのプロデューサーが、今回の原作の企画を持ってきてくれました。僕は昔から村のしきたりとか因習といったものに怖さを感じていて、そこに惹かれるんです。そこを膨らませた作品にできたらと思いました。そして脚本にしていく際に、主演に松田龍平さんの名前が最初に上がり、僕もすごくいいなと思ったんです。

――岩森役に松田さんが「すごくいい」と感じた理由はどこにあったのでしょうか。

入江:岩森は主人公ですが、清廉潔白というわけではなく、ちょっとした狂気というか謎めいたところを秘めているキャラクターです。そこが松田さんに合っているんじゃないかと思いました。

――松田さんとは、岩森の“反応”について話し合いをされたとか。

入江:岩森は医者ですが、村に妻を捜しに来たというミッションがある。さらに村が閉鎖されて、娘と一緒にサバイブしなければならなくなる。そうした大きな軸があるなかで、その都度、このときは何が彼の心理の最初に来るのか、医者としての意識なのか、娘を思う父なのか、そうしたことを確認していきました。

――後半、岩森は理性ではない部分、感情的な動きが大きくなっていきます。

入江:その辺は少し意外だったんです。松田さんが、「娘を守る」ことを優先順位の上にどんどん持ってきたんですよ。脚本の段階よりもそこは撮影で膨らんでいきました。

――岩森の妻・仁美と、その妹・有美をひとり2役で演じている蓮佛美沙子さんが、本作で「荒ぶる松田龍平さんが見られる」と話していましたが、まさにその点ですね。

入江:はい。松田龍平という人だからこそ、血が通った部分だと思います。

――改めて、11年ぶりの仕事で感じた変化などはありましたか?

入江:『同期』は、僕が初めてプロデューサーに依頼されて、人の脚本で人のお金で撮った商業作品でした。いわば右も左も分からないようなペーペーの監督だったわけですが、今回改めて松田さんと仕事をしてみて思うのは、松田龍平という人は、そうした駆け出しの人間だとかベテランだとか、そういったことにまったく左右されないんです。本当にフラットに接してくれていたんだということに、11年越しに改めて気づいて、尊敬の度合いが上がりました。

――役者としての変化は感じましたか?

入江:先ほどお話しした“娘に対する思い”ですね。。そこはたぶん、彼の人生の11年分の積み重ねが出たのだろうと感じました。ほかに細かいところでは、岩森は封印していたトラウマがだんだん蘇ってくるのですが、そうしたところで、頭がズキズキするといった類型的な演技を再現してみせるのではなく、自分自身の生理的な反応としての芝居をするんです。それがすごく良かったです。

関連記事