『ちむどんどん』憂いを帯びゆく愛に目が奪われる 飯豊まりえの“十八番”とも言える演技

 第12週「古酒交差点」より本格的にスタートした『ちむどんどん』(NHK総合)の恋愛パートは、第13週「黒砂糖のキッス」でさらに複雑に絡み合っていく。登場人物は暢子(黒島結菜)、和彦(宮沢氷魚)、愛(飯豊まりえ)、智(前田公輝)の4人。中でも、公式サイトの「あらすじ」にも書かれているように第13週の軸として描かれていくのが愛である。

 初登場は第8週「再会のマルゲリータ」第37話。東洋新聞でボーヤさんとして働くことになった暢子は、和彦と思わぬ再会を果たす。そこで和彦が学芸部の同僚として暢子に紹介するのが愛だった。『ちむどんどん』の中でも一際お洒落で優しく朗らかな笑顔を見せる彼女は、1970年代前半の当時としてはまだ決して多くなかった女性の新聞記者である。愛は暢子と食堂に向かおうとする和彦から昼食を誘われるものの、締め切りが迫る原稿があることを告げ、和彦の緩んだネクタイを締め直しながら「この柄すごくいいけどシャツは薄い青系の方が合うかしら?」と彼のコーディネートにアドバイスをする。青のシャツでは取材に行けないと言い返す和彦に愛はさらに「固定観念に縛られ過ぎると時代に乗り遅れるわよ」と言い残し、颯爽とデスクに戻っていくのだった。愛はその初登場で短い時間ながら「先鋭的な価値観」「ファッション性の高さ」「和彦とのパートナーとしての関係性」の3つのイメージを視聴者、そして暢子へと残していく。

 ここ最近、飯豊まりえが演じる役柄はファッショナブルなキャラクターが多い。『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)シリーズで岸辺露伴(高橋一生)の担当編集を務める泉京香(飯豊まりえ)を演じた際は、飯豊自身がInstagramに「衣装はわたしの身体にぴったりあったオートクチュールです たくさん話題になっていて嬉しいです」「シャツやリボンの生地、質感。袖の膨らみ具合 ツイードの配色とサイズ ディテールがかなり繊細で素敵でした!」と投稿するほどに原作のディテールを見事に実写として昇華させた劇中衣装を着用。さらに『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系/以下『恋マジ』)で演じた真山アリサ(飯豊まりえ)もアパレル店員、そして今作の愛へと繋がっている。

 ただ、その性格や価値観はそれぞれ大きく違っている。『岸辺露伴は動かない』の泉京香は露伴を常にイラつかせる、どこかずぼらで楽観的な考えの持ち主。『恋マジ』では、パパ活に勤しみ、恋愛もコスパ命と考えるような真山アリサが本気の恋を実らせていった。

 愛はファッション担当の記者として「女性の地位や立場の向上も訴えていきたい」と高い志を持ってはいるが、なかなか日の目を見ることはなかった。上司の田良島(山中崇)は愛を「どの分野もそつなくこなし、取材相手や上司の扱いもうまい」と高く評価しながらも、同時に「“これは大野にしか書けない”と思わせる仕事には恵まれてこなかった」と厳しい言葉も投げかけている。劇中においても和彦のサポートを任せられるシーンが中心だ。

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