『マイファミリー』富澤たけし、『テセウスの船』せいや 犯人役に芸人が指名されるワケ

 二宮和也主演の日曜劇場『マイファミリー』(TBS系)が最終回を迎えた。

 ゲーム会社の社長・鳴沢温人(二宮和也)と妻の未知留(多部未華子)の娘・友果(大島美優)が誘拐されたところから始まった本作。視聴者の考察も熱を帯びていく中、最終回では、とうとう黒幕の正体が明らかに。真犯人は、サンドウィッチマン・富澤たけし演じる神奈川県警捜査一課長・警視の吉乃栄太郎ーー。一部では、彼の不審な言動から犯人と当てていた視聴者もいたようだが、驚愕する人が大半だった。

 伝統ある日曜劇場で、重要な犯人役を手だれの俳優ではなく、芸人が演じたのは本作が初めてではない。竹内涼真が主演を務めた『テセウスの船』(2020年/TBS系)では、事件の黒幕・田中正志を霜降り明星のせいやが熱演。警官・佐野文吾(鈴木亮平)の行動がきっかけで母親と妹を亡くした正志が復讐をしていくわけだが、当時は、まさか物語の軸となる真犯人をせいやが演じるとは思わず、ほとんどの視聴者を騙すことに成功した。

 なぜ俳優ではなく、彼ら芸人が犯人役を任されたのだろうか。霜降り明星のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」と、富澤のオフィシャルブログ「名前だけでも覚えて帰ってください」で語られた本人談の資料を確認しつつ、考察していきたい。

 まずは、ミステリードラマには欠かせない“意外性”は大きいところだろう。2作品のキャスティングは「人を笑わせる職業の芸人に犯人役を任せるわけがない」という視点を逆手に取ったものであり、視聴者の“騙されたい”欲求を満たすのにも打ってつけの抜擢だった。演技初出演だったせいやも「ドラマ一発目のヘボそうなヤツには、犯人をやらせんやろうという……。かなり裏をかいていた」とスタッフの思惑を語っている(※1)。

 ただし、芸人をキャスティングするのは諸刃の剣。驚きを与える反面、俳優との演技力の差もあって、叩かれてしまうケースも多々ある。だが、スタッフも、演じる本人も、それを分かった上で大博打を打ってきた。クランクイン前、否定的な声を想像していたという富澤は「せっかく頂いたドラマの大役に対して、もしも上手く答えられたら嬉しいし、最後まで騙せたら面白そうなので覚悟を決めました」と当時の想いを綴っている(※2)。視聴者を楽しませたい一心でドラマに参加したわけだ。

 そしてもう1つ。黒幕の“本来の人柄”と彼らのビジュアルにも注目したい。『テセウスの船』の正志も、『マイファミリー』の吉乃も、悪であることは間違いないが、最初から凶悪犯というわけではなかった。

 せいやも自身の解釈として、正志は「(もともと)人を殺すような人間じゃない」と述べている。(※1)復讐心によって悪人となってしまった正志だが、じつは家族思いの心優しき青年。制作陣は、そんな正志の“本来の姿”が、ドラマ初挑戦のせいやにうまくハマると感じたのかもしれない。

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