『ちむどんどん』を観て感じるコメディの難しさ 朝ドラだからできること/できないこと
ところで。先日、笑福亭鶴瓶の即興劇『スジナシ』に賢秀を演じている竜星涼が出演し、即興劇に挑んでいた。鶴瓶に名前を聞かれて「ひが(比嘉)」と答え、でも下の名前は言い渋り、最終的に「けんしゅう(賢秀)」と言ってしまう。『ちむどんどん』と結びつけたような人物は「探偵物語」の松田優作ふうな出で立ちで、都会で寄る辺なく生きている雰囲気。こっちのほうが羽原ドラマに近いような気がしてしまった。おまけに鶴瓶の作ったキャラも彼が主演した映画『おとうと』のようで身内の結婚式に出席するのにお金がなくて服が用意できないという困った感じ。社会的にうまくいってないふたりの人物のかみあわないやりとりが可笑しい。こちらもシリアスではなく即興コント的なものだが、鶴瓶が醸す、はしゃぎ過ぎないけれど可笑しい、人情味のある笑いの空気が通奏低音としてあって、悪くなかった。笑いは難しい。哲学とか美学とかが必要だと思うし、一朝一夕にはできない。それこそ、時間をかけた出汁みたいなものが必要だ。
例えば、6月9日深夜に放送されていた『モクバラナイト「ドン底人間を救うハッピーシアター ピンチさーん!』(TBS系)という番組。お金に困っているピンチな人に芸人が芸を見せて、最後まで笑わなければ10万円を進呈するという企画に、ゴミ屋敷に住んでいる30代女性がチャレンジした。
彼女のちょっとありえない生活を歌にして、しかも「好き」と歌われて泣いてしまう女性。飼っていたニワトリを食べた話は『ちむどんどん』の比嘉家が飼ってた豚を食べたエピソードのようだった。生活に困っている人を馬鹿にしているような番組にも感じたが、低収入でゴミにまみれた部屋から脱出できない人は実際いるだろう。それを肯定されたら泣いてしまうなんてこともないとはいえない。この番組はこの番組で、こういう生活をしている人を笑いにくるむことで違う角度から観ることをやっているように感じた。
一方、公開中の阪本順治監督作『冬薔薇』。主人公は父母とちゃんと向きあえず、悪い仲間たちにいつも頼る。その悪循環が『冬薔薇』では描かれている。こちらはいっさい笑いなし。この映画を観ると、賢秀が我那覇に肯定されたらすがってしまうという物語もありえないわけではないのだと思えてくる。でもこれを朝ドラでやったらそれこそ離れていく人がいるだろう。
広い世界に自分には思いもよらない生き方や考え方をしている人がいる。『ちむどんどん』が賢秀や優子の行いを『ちむどんどん』なりの表現で是非を判断することなく描いていることは肯定したい。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK